杉元佐一
現パロ、野菜の日、佐一の日
「佐一くん〜!お野菜取ってきて欲しいのだけど、」
「いいよ。なにがいる?」
「ありがとう。獅子唐とトマトとオクラが欲しいな」
太陽が少し傾き始めたとはいえ、熱いものは熱い。ベランダに置きっぱなしのビーチサンダルは熱を吸収していて足裏をじんわり焼いた。
彼女の部屋の居心地が良さすぎて、気づけばこの空間で過ごす時間が多くなってきた。近所の子にもらったという朝顔のカーテンが日除けをつくる部屋で、きついミントの歯磨き粉で口内を清め、幾分か低い彼女の体温を抱き寄せながら眠りにつく。そんな夏を過ごした。
彼女はマメなひとで、朝起きると窓際とベランダの緑に水をやる。俺が起きる前に始めることも多くて、おはようを伝えるために彼女を探すことがよくある。
「ししとう、とまと、おくら、」
彼女の愛と日差しを一身に浴びた野菜たちは見事に育った。つやつやと表面を輝かせ、水分をぱんぱんに含んでいることを主張してくる。小さなバスケットにいくつか入れていく。トマトなんか特に、既に食指が動く。
「佐一くんありがとう」
「どういたしまして」
まな板の上には鶏肉が乗っていた。調理台に用意された野菜たちを見る。
「チキンカレー?」
「そう。トマトいっぱい入れておいしくするの」
「うまそう」
彼女を後ろから抱きしめると、こら、と声が上がった。鶏肉を触った手だからだろう、口以外で抵抗してこない。いつもなら軽いチョップなんかが飛んでくるのだが。
「ほら、くっつかない。キッチンは暑いんだから。佐一くん、シャワー浴びてきなよ」
肩口にぐりぐり頭を寄せる。
「髪の毛落ちちゃうよ。ね、」
渋々頭を離した。
「シャワーさ、2人で浴びよう」
「変なことしない」
「うーん、どうだろう」
「えぇ、」
仕方ないじゃないか。君と一緒にいると、いつだってちょっかいをかけたくなるのだ。
「俺も手伝う。なにすれば良い?玉ねぎ剥く」
「助かる。そしたらね、玉ねぎと人参剥いてね。終わったらさっき取ってきた子たち洗って」
「ふふ、りょうかい」
なんだかんだ彼女は俺に甘いので、きっと一緒にシャワーも浴びてくれるし、なんだかんだ変なことはする。
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