二階堂兄弟
24ライ/西瓜
現パロ転生
書き上げたけど納得いかないのでこっち
むかし、わたしが北の地で看護士として駆け回っていた頃のことを、未だに夢を見る。片割れを喪った彼の最後をみることは、叶わなかった。わたしは彼の専属であったわけでもない、数いる看護士の1人だったのだ。
用件も言わずに、浩平は近所の河原にわたしを連れてきた。途中のコンビニでサイダーを3本買った。夏らしい刺激が気に入っているようだ。
二階堂兄弟との縁は切れず、彼らは今、わたしのアパートのお隣さんをやっている。他の人間に会わないのはなぜだろうと思ったこともあったが、わたしの霞がかった記憶の中で、しっかり認識できている顔がこの2人だけなのかもしれない。
まだ午前の時間だ。惰眠を貪っていたい社会人を、この無駄に元気な大学生は叩き起こした。耳に残る蝉の声が、これからぐんぐん上がる気温を予感させて目眩がするようだ。
「やっと来た」
「だって起きないから」
「あー、だからすっぴん」
「うるさいなぁ。急に起こすから、」
格好もTシャツにジーンズ、引っ掴んできた帽子とお粗末なものだ。
「冷えてる?」
「冷えてる、冷えてる」
この双子は、たぶん、覚えていない。初めて会ったとき目を剥いてしまったが、所謂、おもしろい人間認定をされてしまったのだ。ラブなフラグが立つのではなく、ちょっかいをかけると、巻き込むと、良い暇つぶしになるような人間。
浩平がわたしの名前を呼んだ。小さなレジャーシートの端を持たされる。首を傾げながらも、芝生の上に一緒に広げた。川の方から、洋平がスイカを持ってくる。
「食べるの」
「割ってからな」
「ああ、夏っぽいねぇ」
やっぱり急な2人だ。そういえば、昨日スーパーでスイカが安かったのを思い出した。
レジャーシートに下されたスイカは青々としている。身に纏った水分で、ブルーのチェックのシートに水溜りを作った。この、まあるい食物は、どこか、彼らに似ている。
「洋平からやる」
「決まってるの、」
「うん。きみは最後ね」
「やらせる気ないでしょ」
「どうせ割れないし、はやく食べたいじゃん。スイカ」
兄弟は頷き合う。明治から幾分か健康的になった彼らは、未だに一般的には青白い。夜中まで仲良くゲームに勤しんでいたり、妙に偏食だったりと思い当たる節はある。ただ、彼らの肌艶や、爪先を見るとあの時代ではないのだと改めて思うのだ。
浩平最期はついぞ知らないが、彼がだんだんおかしくなっていったのは、わたしは良く知っているのだ。目に見える欠損も、片割れを喪ったことでの破滅も、彼の崩壊の一部を、近くでよぉく見ていた。見ていただけで、止める術もなかったのだが。
青っぽくて、まあるいそれは、なんとなくあの頃の浩平に似ている。
「もっと右、まっすぐ、まっすぐ」
無邪気に指示を出す彼の声は踊っている。
高くも低くもない、間抜けな音と一緒に赤い破片が散った。
洋平のハラワタ、足りなかったけど赤々としていたのを思い出した。
2人とも血なんて通っていないのではないか、というように不健康な肌をしていたのに、溢す中身はスイカと一緒だったのだ。
洋平に名前を呼ばれて顔を上げる。
「食べるよ。暑さでやられた」
「まじか、日陰に行こう。ほら、サイダー飲んで」
大丈夫、ありがとうと受け取ったペットボトルを開けば爽やかな音。それと同時に多量の泡がわたしのTシャツを染めた。
ぽかんとする双子を見るに、これは事故らしい。
「あはは」
叱るわけでもなく笑い転げるわたしに2人は本格的に暑さにやられたのかと心配してきた。むかつくくらいの暑さだけど、泡くらいならいくらでも溢して良いよ。
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