家永カノ
金カ夢24ライ/雷/家永
わたしは自分に誇りを持っている。このうつくしい髪のおかげで家永さんの隣に立てるのだ。わたしの艶の良い髪に口付ける姿が、わたしはなによりもうつくしい光景だと思っている。
2人でホテルを切り盛りしているある夜の事だった。わたしは元来臆病な性格で、その日は夕方からずうっと雨が降っていた。はじめは遠くで響いていた低い音が近づいてきたのを感じる。
お腹の底で響くような音が嫌いだ。臓器を揺さぶる嫌悪感、あの光がどこに落ちるのかと不安から縮こまるしかない小さな自分。
「家永さん…」
「あら、こんな時間にどうしたの」
情けなくも眠れない事を告げれば、家永さんは自らの寝台にわたしを招いた。
「あなた、髪が伸びたわね。ふふ、整えましょう」
今日は良い客がいなくて、なんてウインクまでくれる。かわいい。
「あなたの漆のような髪は良いわ。知ってる?あなた、とてもあまい香りがするの。わたし、あなたを口にするとたっぷりと蜜を含んだみたいにとろけそうになるわ」
家永さんは繊細な装飾が施された櫛でわたしの髪を上から梳かしていく。その間も窓の外からは轟音がわたしを責め立てる。肩を揺らし、身をかたくするわたしを見て家永さんはおかしそうに笑みを浮かべる。その弧を描く唇のなんとうつくしいことか。乾燥など知らないであろう艶、就寝前で紅を落としているのに桜貝のような色をしていてかわいらしい。
臓物の揺れるような嫌悪感、髪に頭皮に流れる心地よい刺激、そして魅惑的な唇。ぐらぐらぐらぐらと思考が揺さぶられるような錯覚に陥る。
家永さんは挑発的な笑みを携えて、わたしの髪を一房手にした。大事そうに一撫でして真っ赤な舌で舐める。
もう堪らない。
心臓は大きく鼓動し、呼吸が浅くなる。
家永さんはそれをハサミで切り取った。
「明日の朝いただくわ」
白魚の手がわたしの長い髪をかき分ける。
「もうだめ。あなたの香り全部楽しませて」
頸に生暖かい感覚があった。髪から顔を離した家永さんがわたしをゆっくり押し倒していく。
桜貝から覗く真っ赤な舌が、酷く蠱惑的だった。
彼女の息遣いのなか、遠雷を聞いた気がする。
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