Mr.ドンと真夜中

ワードパレットリクエスト

 楽しくなって出鱈目なステップを踏むと、目の前の男はわたしの手を取ってくれた。あたたかな、そしてわたしよりとてもとても大きな手が腰に添えられる。なんだろう、彼はとても素敵なにおいがする。
 きらきらとグラスはカラフルな照明を映した。あまいカクテルが毒々しい色を飲み込む。浴びるように、わたしは一杯一杯を飲み干していった。こうやって嫌な過去もなんでも、忘れられれば良いのに。なんて思って。
「見ない顔だな」
「それでも踊ってくれるのね」
「そういう場所だからな」
 この男に、わたしは見覚えがあった。この国を訪れるのは初めてだったが、メディアに度々取り上げられている。美しく雄々しい存在だ。こんなところで出会えるなんて。
「深呼吸をひとつしてみろ」
 言われるがまま、吸って、吐いた。
「酔っ払った女を口説くなんて、矮小な男がすることだろう」
 王者の風格のある男はわたしにわらいかける。わたしの切ったばかりの短い髪を弄んだ。耳に指先が触れてくすぐったい。よく褒められていたものだったが、思い切って切り落としてしまって良かった。毛先から、耳、頬、顎をなぞる。こんなの、もう、アルコールに酔っていようが、酔ってなかろうが、関係ない。
 こんな真夜中に煌々と光る空間で、本当に現実なのだろうか。わたしをしっかりと抱く彼のぬくもりに縋りたくなった。




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