高見さんと煮詰める
フォロワーさんとやった夢怪文書バトルなるもの。
「薄皮剥けたよ」
「ありがとう」
キッチンには柑橘類の爽やかな香りがあふれてある。真っ白なグラニュー糖を赤い秤に乗せていく。これはかわいい雑貨屋で一目惚れして購入してしまったものだ。橙色の皮と彼が処理してくれた実、そしてグラニュー糖をホーロー鍋に投入する。
「こんなに簡単なのか」
伊知郎さんは珍しそうに、わたしの後ろから鍋を覗き込む。感心している彼が少し幼く見えてかわいい。吐息でわらってしまった。木べらでゆっくり、ゆっくりとかき回す。
「簡単ですよ。あとはもう煮詰めるだけ。やります?」
そう言って木べらを押し付けた。焦げちゃうから気をつけてと言って彼の腰のあたりに触れる。彼の目線は妙に真剣だ。あまりキッチンに立たないからだろう。わたしの賃貸のキッチンは作業台が日本人の平均サイズである。そのため、目線の高い彼はどうにもやりにくそうだった。
「そう、うまいよ」
少し緊張したようにぎこちなく、木べらを動かしていく。わたしは先程煮沸消毒をした瓶を並べた。爽やかさの中に、溶けたグラニュー糖の甘い香りが混ざる。
「近所のおばあちゃんがたくさんくれて」
わたしの部屋を訪れた伊知郎さんは、クラフトの紙袋を見せた。その中にはいっぱいの蜜柑が入っている。食べきれないからそのまま持ってきてしまった、という。
「二人で食べ切るのも難しいし、ジャムにでもしようか」
そう提案すると、少し驚いていた。ジャムを作る選択肢がない彼に、わたしは笑ってしまった。この量はそうでもしないと腐らせてしまう。わたしはマーマレードの作り方は知っていたけれど、どうして腐りにくくなるのかは知らなかった。微生物が細胞から水分を奪われてしまうから、だそうだ。そんな事を知っていることに、わたしが驚く。
ジャムひとつをとっても、環境の違いが垣間見えてなんだか嬉しくなってしまう。
「今度からうちに泊まった朝はトーストだね」
横から手を出してコンロの火を止める。二人の朝の匂いを作るのって、なんだか素敵だ。