バレンタイン前の進

ワードパレットリクエスト

 きれいな子だなぁと思った。近くの高校の白ランの上からネイビーのコート着て、背筋を真っ直ぐ伸ばしたままショーウィンドウを眺めている。口を真一文字に結び表情は真剣そのものだ。真っ黒な瞳が白色の照明をきらきらと映していた。
「ギフトですか?お悩みでしたら、ぜひご紹介させてください」
 真剣に選ぶ姿がいじらしくて、思わず声をかけてしまった。彼は少し悩んでから頷く。
「自分はこういったものを食べないから、何が良いのかがわからない。ぜひ頼む」
 どんな相手なのかと問えばまた少し悩んだ。ゆっくりと開かれる唇は大切な言葉を紡ぐようだった。彼女のことを思い浮かべているのであろう表情のやわらかなことよ。春のひだまりのような、あたたかな風も唄ってしまうような、やさしい表情をした。
「素敵な彼女さんなんですね」
「恋人、ではない」
「そうなんですか」
 彼の前に色とりどりのパッケージを並べる。きらきらと反射する箔が彼のコートに光を映す。甘酸っぱいもの、キャラメルの混ぜ込まれたもの、コクがあってコーヒーによく合うもの、爽やかな柑橘の香りがするもの。ひとつひとつを丁寧に説明していく。彼は興味深そうに相槌を打ちながら聞いてくれた。最終的にチェリーレッドのパッケージを選んだ。小さく深呼吸をして、丁寧に十字にリボンをかける。
「きっと、喜んでくれますよ」
 気休めの絵空事ではない。チョコレート1つにこんなに悩める彼のことだ。きっと彼女を大切にしている。
 今年のバレンタイン商戦は素敵な関係を覗けたなぁと嬉しくなった。彼に幸運がありますように。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -