チュープリ(七ツ森)

 YouTubeでシャッフル再生をしていたらとんでもないフレーズが聞こえた。二十三時、課題に首を傾げながらペンを走らせていたときのことだ。ガチャガチャと節操なく流し聞いていたので、誰が何を歌っているか認識していなかった。甘い女の子の声が、蕩けるような誘いをその向こうから投げかけた。画面を見れば、20歳前後くらいの女性たちがポーズを取ったりしながら楽しそうに歌っている。

 良くない想像が、妄想が、脳裏をよぎる。彼女がこの前のデートで着ていたイエローのキャミソール。華奢な肩、きれいな首筋、それから汚れたことがないような真っ白なデコルテ。
 もし、だ。
 彼女がそんなことを言ったらどうなってしまうのだろう。
「……絶対カワイイ」
 いや、それはそうなんだが、それだけで済むのだろうか。無防備なやわらかでまあるい頬に触れて、あの甘い髪に指を通して、それから……。あの唇はどんな感触なのだろうか。
 流れていく楽曲はキスを強請るフレーズから始まり、人気アイドルになりたいけどチュープリを撮りたい。なんて歌っている。チュープリを撮るくらいならその人気をわたしにくれと歌っている。
 いや、なんだこれ。
 画面の中ではきらきらとかわいいアイドルたちの写真がガチャガチャとスライドされていく。スマホで撮ったような写真にプリクラ、ぎゅうぎゅうと抱きしめてあったり、ふざけ合ったりと仲が良さそうだ。
 それから……
「マジか」
 ばっちり唇同士をふれ合っている写真。チェリーカラーがぴたりと触れ合っている。MVのガチャガチャ、ゴチャゴチャと流れゆく画像の濁流の中それが脳にこびりつく。
「よりによって次のデート、ゲームセンターじゃん……」
 明日の予定に気づいてしまった。絶対これを思い出してしまう。絶対妙な気持ちのままふたりで遊ぶことになる。あのやわらかい手で俺を引っ張り、無邪気にプリクラ撮ろうなんて言われたらどうしようか。いや、どうもしないんだけど……。こっちが勝手に無駄な緊張をしてしまう。
 SNSでチュープリが流出したアイドルが炎上する様をたまに目にするが、どうしてそんなリスクのあるものを撮るのかと思っていた。でも、こんな動画を見たら、なんだかドキドキしてしまう。撮りたい、とかはわからないけれど、勝手に期待してしまう。彼女に限って、絶対ないけど、ないけど、期待するなと言い聞かせても意識してしまう。そんなこと言われたら、あの狭い箱で彼女は背伸びして、俺は身を屈めて……。
 そもそも、プリ機の中では画角にバッチリ入って映えるようにいつもより距離が近いのだ。無邪気に触れ合う中であの頬に、唇に触れたくなってしまったらどうしよう。あまい肌を思うだけでくらくらする。
 いやどうするか……。
「チューしたい……」
 こんなに情けない声、彼女に聞かせたくない。ひとりで顔を赤くして、馬鹿みたいだ。




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