反射の温度(尾形)

ツイッターの一本勝負で書いたもの。
お題「ミネラル」キャラ「尾形」


 気だるさから、瞼を開くことが億劫だ。日付は変わっただろうか。この部屋でまた、夜が更けていく。先輩がわたしの髪を撫でる。狸寝入りに気付いていないらしく、今日を含めた数度の行為の後は決まってわたしにやさしく触れるのである。汗を吸った髪をゆっくりと撫でられるのは少し恥ずかしい。情事のそれとは違う感覚なのだ。
 額に、頬に、唇に、首筋に彼の温度が落とされていく。
「  」
 知らない音を聞いた。なんだか、古風な音。しあわせなぬるい温度は足元から霧散していくようだった。甘ったるい湿度を含んだ声で数度のそれを呼んで、わたしにしっかりと布団をかけなおした。隣でごそごそとするも、しばらくすれば気配は落ち着いて、寝息が聞こえて来る。
 わたしはゆっくりと体を彼の反対側に向けた。あんなに億劫だった瞼はすっと開く。薄暗い室内でカーテンの隙間から入り込んだ光を、ミネラルウォーターのボトルが反射している。



 セックスをすると、すぐに眠りに落ちてしまうところもあの頃のままだ。あの頃よりも柔らかな海に身を沈める彼女の髪に触れる。ゆっくり、ゆっくりと毛先までを確かめるようになぞっていった。
 少し起き上がって、額に、頬に、唇に、首筋に口付けた。汗をかいたのか、少し塩気がある。本当はここに思い切り噛み付いて縛り付けてしまいたい。何も知らないかのような、この肌をこの先、他の人間なんぞに見せられないようにしてしまいたい。
「  」
 久しぶりに発したその名はなんとも懐かしかった。とびきりの甘さを含んだ自らの声に苦笑する。胸元に口付けながら、数度その名をなぞった。やわらかくて、甘ったるくて、でもどこか苦味を残す。あの頃も、今だってそういう女だ。
 あの頃だって待っているだけの女じゃなかった。鬱陶しいくらい、ついて回る姿に、柄にもなく次第に絆されてしまったのだ。
 寝ている彼女を起こさないように、そっと布団をかけなおした。俺の隣にお前の呼吸があることが、なによりも嬉しい。そんなことは口にはできない。
 眠る前の視界にコンビニで買ったミネラルウォーターが入る。無機質なペットボトルに淡い光が反射している。




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