愛妻の日門倉

 新しい生活様式、ソーシャルディスタンス、会食はしない、時差通勤、テレワーク。この一年で、しっかりと耳についたと思う。
「おはよう」
「おはよう。なぁに、日曜日に早起きなんて珍しい」
 年下の彼女はおかしそうにくすくすとわらう。のそのそと洗面所に行くのを見守って、キッチンに立った。電気ケトルのお湯を温め直す。金曜日の帰りに買い、通勤カバンに隠しておいた(決して入れっぱなし、ではない)袋を取り出す。
「座っててよ」
「えっなに、」
「いいから」
 夫婦の時間がたっぷりと増えた1年だった。こんなに家のことをたくさん抱えていたのかと驚いた。2人でのんびり過ごしたい、そういう願望を叶えてくれているのは彼女がテキパキと家事をこなしているから。今年はいつもより、手を出してみたけれど、それでもまだ彼女の負担の方が多い気がするのだ。俺が洗濯物を畳んで雪崩を起こしても笑ってくれて、フライパンを焦がしたらホームセンターにデートですね、なんて、出来すぎた嫁である。呆れられても良い失敗をしても、笑って楽しそうにしている。自身も仕事で疲れているだろうに。
 ダイニングテーブルについた彼女の前に食器を並べる。ちょっと良い紅茶を手際が良いとは言えないが淹れていく。なみなみになってしまい見栄えは良くはないが、たぶん美味いから大丈夫だろう。
 紅茶と、彼女がすきな近所のパン屋のチーズブール(これは朝イチで買いに行った)、それからキッチンブーケを並べた。
「どうしたの?わたしの好きなものばかり。ありがとう。とってもうれしい」
 目を細める姿をずっと見ていたいと思った。




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -