バッドと20センチ

夢怪文書バトル


 ローテーブル上の雑誌と一緒に積まれたレース加工の白い封筒が視界に入った。嫌な感じだ。
 10年近く前はまぁるい頬を無防備に晒して俺の隣で『おひるね』をしに来ていた女だった。それこそ、姉のような存在だっただろうか。俺より2つ上の彼女は気がつけば立派にハイヒールを履きこなし1人でどんどん歩いて行っている。デコルテをきれいに魅せるブルーのミニドレスを着て俺のバースデーパーティーに来てくれたのが去年のことだ。あの時は長いブロンドの髪をふわりと巻いて、赤いリップが映えていた。
 そして先日彼女は俺の部屋を訪れた。
「バッド、これ、受け取って」
 わざわざ俺に直接会って渡したいなんて言うから何事かと思った。なぜだか、背中に妙な汗が流れたような気がした。よほど、大事な話なのか。約束の時間に現れたのは20センチほど髪をバッサリと切り落とした女だった。ジーンズを履いて現れた彼女はあの夜とは別人のようだった。華やかで、初めて見る色を俺に見せつけて、姉なんて幻想を吹き飛ばした彼女はまた、俺の知らない女になっていた。
「随分思い切ったな。どうした?失恋でもしたのか」
 そう問えば、抗議の声と共に軽い反撃が返ってくるものだと思っていた。
「違うわ。わたし、結婚するの」
「は?」
 彼女は少し眉を下げて笑った。垂れ目の彼女がより幼く見えて、あのひだまりのような日々を思い出す。俺には直接報告したかったと言うのだ。あのあどけない彼女が、こんなに残酷なレディになってしまうなんてな。

 諦めの悪い俺がため息なんて着くのはらしくない自覚は十分にある。しかし、彼女がしあわせそうにわらうから、映画みたいに結婚式から略奪なんてできっこないのだ。




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