ポプラさんにビートくんが連れて行かれてからトーナメントまでの間のお話。


 「やさしくしないで、」
 小さな声だったがそれは確かにわたしの耳に届いた。
 アラベスクタウンにひっそりとある小さなカフェ。ビートくんはポプラさんにしごかれた後、よくやってくる。どんな事をやらされて大変だったといったいった話をよく聞くが目はやさしい。良い刺激を得ているのだろう。
 今日もいつもの紅茶とこっそりサービスしているクッキーを齧っている。
 「なにかあったの」
 「あきらさんはどうしてボクの話をそんなに聞いてくれるんですか」
 「わたしがビートくんに興味があるからかなぁ」
 今日はなにかいつもと違う事を考えているようだった。
 彼の他にお客様もいないのでわたしの分も紅茶を淹れる。ふわりと香る甘さがすきだ。あまいみつをひと回し。
 「あきらさんはボクがジムリーダーになるから、その、興味があるんですか」
 物事をはっきりと言う彼らしくない歯切れの悪さ。
 両手でカップを見つめたまま視線を上げない。
 「わたしはあんまりバトルの事はわからないからなぁ。ジムリーダーじゃなくてもビートくんなら興味あったと思うよ」
 かわいいなぁ。どこでそんな不安をおぼえたのだろうか。
 彼はまだ子どもなのにたまに1人で立つ事を知っているかのような顔をする。
 「わたしはビートくんのお話を聞くのも、こっそりクッキーあげるのも、全部すきでやってるの。お子様は大人のやさしさに甘えときなさい」
 「お子様?」
 「お子様だよぉ。ジムリーダーになって責任増えたって、あなたはわたしから見ればかわいいことには変わりないし、とっても甘やかしたい男の子だよ」
 ビートくんは少し唇を歪めた。この子はふわふわの髪の毛や、ステンドグラスのようなきれいな瞳、手入れされた爪先、白い睫毛もうつくしい。そんな子は表情を歪めてもうつくしいのか。
 流石に子ども扱いが過ぎたかな。
 「でもね、わたしはビートくんの事特別に甘やかしてるよ。だってわたし、頑張ってるひとだいすきだもの。お子様とは言ったけど、ジムリーダーとして、トレーナーとして頑張るビートくんの事は人として尊敬するしだいすきだね」
 ビートくんはぽかんとわたしの顔を見た後に、目線を窓の方に逸らし、恥ずかしいひとですね、と毒づいた。
 「ボクはエリートなのでお子様ではないです。でも特別甘やかすのは許してやりますよ」
 「ふふふ。ありがとう」
 冷めかけた紅茶を飲み干す。
 そっぽ向くビートくんの耳が少し赤いのがかわいらしい。愛されることに、甘やかされることに不安にならなくて良いのだ。
 わたしは彼にとって良い大人でいたい。
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