現パロ/セフレネタなので注意


 しっとりと汗をかいた肌が外気に触れて寒い。
「ねぇ、温度を上げても良いかしら」
 尾形は、ああ、とだけ返した。ベッドに腰掛けて猫背になり行儀悪く煙草を吸う彼の背中を眺める。白い肌に背骨の凹凸が見える。さっきまで少し赤みがかっていた肌は、青白さを取り戻していた。いつもは撫で付けられた髪が乱れていて、それがセクシーだと思う。
 2度ほどエアコンを上げる。タイマーもかけた。
「歯形を残さないでって言ってるのに」
「いいじゃねぇか。他に見せる相手もいないだろう」
 わたしの乳房や二の腕、足の付け根に至るまで赤いものが散っていた。彼はこうしていつも痕跡を残す。しかし、わたし達は体の関係だけなのだ。
「だって、」
「キクタサンからはもうお声はかからないから安心しろ」
 尾形とわたしの関係は同僚、セフレ、そんなものだ。同じ島の斜め前の席から、嫌味ったらしい視線を投げてきたり、お酒を飲んで愚痴りあったりしていたら気づけばこうなっていた。うっかり一夜の過ちをして、それからずるずると関係が続いているのである。
 わたしは、だらしのない性格である。そしてハマりやすい。だらしがないから尾形との関係が続いているし、だらしがなくてハマりやすいから菊田さんのことが忘れられないのだ。
 尾形は灰皿に煙草を押し付けると、わたしの方に寄ってきた。安いホテルのベッドが小さく鳴る。唇を塞がれようとしたので、彼の頬を両手で挟んで阻止する。舌打ちが響いた。
「臭いから無理」
「うるせぇ」
 わたしの両手を簡単に退けてしまい、そのまま深く口付けられた。苦くて臭くて最低だ。煙草の後のキスなんて不快感しかない。

 菊田さんとの夜のことは、実はそんなに覚えていない。なんて勿体ないことだろう。打ち上げでいつもは飲まない日本酒を勧められて、気づけばベッドで喘いでいた。薄暗い部屋で少し苦しそうな表情をつくる菊田さんがあまりに色っぽくて意識が覚醒した途端彼を締め付けてしまった。
 行為の後はまぶたにキスをくれた。アルコールと行為での疲れでわたしは早々に眠りについてしまったのだが、その倦怠感も心地よかった。
 次の週、菊田さんはいつも通り出社し、わたし達はいつも通り過ごした。尾形のように、夜に誘いをかけてくる事もなかった。わたしが視線を送っても、彼は気づかない。本当に気づいていないのか、それとも一貫してそういう態度を取ることにしているのかは定かではないが、わたしの欲の混じった視線が彼と交わることはなかった。
 会社での表情の裏に、獰猛なあの顔を飼っていると思うと、素敵な彼はもっと磨きがかかって見えるのだ。

「気が変わった。もう一回だ」
 菊田さんからもう一度お声がかからないかしら、そうやって日々を過ごしながら、わたしはこのセフレに抱かれているのである。
「あのひとは、もうお前のことなんて忘れてるぞ」
 尾形はひっそりとわたしの鼓膜を揺らす。歯と舌で、耳朶を嬲りながらひどいことを言うのだ。
「さっさと不毛なことは辞めろ」
 不毛とはどれのことだろうね。
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