「本当に素敵なホテルですね。大きな窓のある部屋に泊まれるなんて。今日は月も大きいしとても良い気分になりました。ええ、1人なんです。死んだ主人がね、この辺りで働いていた事があって。どんな所なのかずうっと気になっていたんですよ。あら、お上手。瞳が綺麗なんて、そんな風に褒めてもらうのはどれくらい振りでしょうか。あのひとはお酒に酔うとよくそうやって褒めてくれていたわ。うれしい。ありがとうございます。主人の事を思い出すと、なんだか寂しくなってしまうのだけれど、貴方がやさしいから甘えてしまいそう。駄目ね、いい歳なのに。
綺麗といえば貴方の唇、とっても素敵ね。潤っていて、それでいて素敵な色。肌も綺麗だから赤が良く映えるわ。とっても羨ましい。主人を亡くしてめっきりおしゃれする機会も無くなったのだけれど、貴方みたいな美しいひとを見ていると、わたしも少し紅でも付けてみたくなったわ。主人にね、昔もらった紅と簪を持ってきてるの。明日はそれを付けて出かけることにします。なんだか、眠くなってきたわ。いつもはもう少し起きているのだけれど、慣れない遠出で疲れたのかもしれないわ。ええ、おしゃべりに付き合ってくださってありがとうございます。こんなに綺麗なひとにお話を聞いてもらって良い夢が観れそう、なんて。ふふ、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
 彼女が最後に映したのは大きな大きな金の月でした。水飴にでも浸したような澄んで潤った瞳に浮かぶ月はなによりも甘美な味がするのでしょうね。
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