24ライ/お題:夜更かし
現パロ
「金曜日は映画の日なんだって」
「ん?」
最近小学校に上がった娘がぽつりとこぼした。ベビーピンクのタオルケットを被りこれから読み聞かせる本を手にしている。やわらかい髪からは甘いシャンプーの匂いがする。
同級生の家庭では金曜ロードショーを観る習慣があるらしい。なるほど、それで映画の日か。
「夜にポップコーン食べると虫歯になっちゃうから、今度お昼にやろうな」
映画、というイベントが羨ましいのだろうと髪を撫でながら伝えれば、違ったらしい。
「大人は夜更かしできてずるい」
「じゃあ早く大人になれるようにいっぱい寝ような」
そう言いながら本を開いた。今読み聞かせているのは、女の子2人が悪い魔女に体を乗っ取られるという海外小説。老婆にされてしまった2人が出会い、満月の晩に魔法を解くという話だ。順調に読み進めると、15夜あたりで読み終わると彼女が選んだ。
しばらくすると健やかな寝息が聞こえてきた。タオルケットを掛け直し、照明を落とす。
「もう寝たの?はやいね、ありがとう」
彼女は台所で明日の米を研いでいた。
「もう終わるか?」
「うん。これで終わりだよ」
娘が小学校に上がってから、どんな友だちができた。花壇でてんとう虫を見つけた。先生が給食を沢山食べたことを褒めてくれた。文字が書けるようになったと、新しい世界の話を起きてる時間はずっとしている。物語を摂取している間だけ少し静かになるが、俺にも、彼女にもずっと今日の出来事を機関銃のように話し続ける。
「誰に似たんだろうな」
「基さんでしょ」
「俺はそんなに話さないぞ」
「基さん、酔った時わたしに絡んでずうっと話しっぱなしなのよ。覚えてない?」
「嘘だろ」
ふふとやわらかく弧を描く。笑窪なんかは彼女に似ている。
垂れ目なところも、爪の形も、髪の毛が少し癖っ毛なのも彼女の欠片だ。
「なぁに、」
「いや、なんとなく」
「なにそれ」
リビングのソファに並んで座る。なんて穏やかな時間なのだろう。彼女の髪に指を通せばあの頃と変わらない表情をくれる。
出会った時から変わらない屈託のない笑顔がすきだ。
「職場のコーヒー、美味しくないの。明日ショッピングモールで水筒買いたいな」
「新しい施設できてたよな。行ってみるか」
「やったぁ」
「あと、映画も観よう。金曜日は映画の日なんだと、」
先ほどの会話を彼女に伝えれば、それはいとおしそうに目を細めた。この前生まれたのに、もう小学生だよ、すぐ大人になっちゃうねぇ。なんて、リビングの隅に置いてあるランドセルを見ている。
「なにがやってたっけ?アニメあると良いのだけど」
スマートフォンを操作して映画を検索していく。なんだか懐かしい気持ちになった。
結婚する前はよく映画館に行ったものだ。片方の画面を覗き込んで、この前は俺が決めたから、今回は彼女の番、なんて風に。
「夕方の回しか空きないから、外食して帰ろうか」
さくさくと座席予約をしていく。
調べ事をなんかをするときの癖も変わらない。左手が唇に触れている。
ぱくり。
「なに、」
「いや、なんとなく」
驚いた顔をして、顔を赤くした。久しぶりに見た。そんな表情。
それがかわいくて人差し指に、優しく歯を立てる。舌をざらりと絡めた。
息を飲むような音がした。目線を投げるがら彼女は膝のあたりを見ている。
たまらずソファに押し倒した。
「たまには夜更かししないか」
「なにそれ」
そう言いながらも真っ赤で、満更じゃなさそうな顔をして俺の首にしがみつく。上気した首筋と娘とは違う香りに目眩がした。
明日は3人で寝坊しようか。