24ライ/お題:くらげ
「じゃあ、元気でね」
「ああ、あきらも」
きれいに口角を上げることはできただろうか。
今日はいつもより少しはやく目を覚ました。腰に纏わり付く気怠さにため息を漏らす。こんな日でも健やかに眠っている横顔が憎い。それでも、まだ愛しい。
「最後にさ、抱いて。そしたら、もう、会わない」
そんな願いを彼は聞いてくれた。
なんてやさしくて、残酷なひとなのだろう。
2人で越えたどんな夜よりやさしく溶かされたような気がする。その事実がなんだか虚しくて、苛立って、寝息を吐く彼の薄い唇を睨むことしかできなかった。
「貴方、わたしを手放したら後悔するよ。こんなにかわいい女に好かれること、もうないよ」
「そうだよなぁ、」
そう少し寂しそうにわらうも、きっと彼はわたしに未練などないのだ。年上のあなたの乾いた手のひらがすきだった。
彼の寝顔に後ろ髪を引かれながら、シャワーを浴びに起き上がった。
わたしの心は打ち上げられた海月に似ている。ぐちゃぐちゃで、不純物を纏って醜い姿、できれば見られたくはないな。今日はね、きれいに口紅を塗れたから、きっと大丈夫。
笑顔を繕うのは得意だから、貴方の困ったような顔を最後に見せるのはやめて欲しかった。
彼のアパートの階段を降りる。振り返るな。扉が閉まる音はしなかった。わたしは駅まで真っ直ぐに背筋を伸ばして歩いた。冷えた車内で急に、どっと汗をかいた。
彼のにやけを耐えるような口元も、わたしに触れる手のかさつきも、わたしを呼ぶやわらかな声も、あの部屋の温度もきっと忘れてしまうのだろう。
この醜い心も、時間が経てば、干からびて溶けてしまうでしょう。それが、なんだか許せない。