24ライ/お題:くらげ
現パロ


 クローゼットを開いてため息をついた。
 別に服を選ぶことは、嫌いじゃ無い。この箱には沢山のわたしのお気に入りが詰まっているのだ。品の良いレースも、タックの多いスカートも、最近買ったシースルーのトップスもどれもがわたしを強く、かわいくしてくれる。
 「どれかなぁ」
 彼とのお出かけはいつも迷ってしまう。
 彼は何を着ても「似合っている」とか「ああ、かわいい」なんて、褒めてくれる。わたしはそれが嬉しい。だけど、彼はわたしが何を着てもただかわいいと言ってくる。わたしはわがままなので、彼がどう感じて、それをかわいいと言ってくれたかまで気になってしまうのだ。まったく、我が事ながら面倒くさいと思う。

 「見応えがあったな、」
 「そうですね。あんなものがいるなんて」
 薄暗い博物館はもう終わりそうだ。ひんやりとしていて心地よかった。周りを見れば、夏休みを利用して来ている家族連れや、友人同士、1人の人間もいる。わたしたちのように、カップルで見に来ている人も多く、様々な層にウケているようだ。
 「わたし、図録がほしいのでここを出たら物販を覗きたいです」
 了承を得て出口の方面に向かう。
 今日は深海をテーマにした企画展に2人で来ていた。なんでも彼が職場の方にチケットをいただいたそうだ。辰馬さんとのデートは映画館やスポーツ観戦、ドライブなんかが多かったので、こうして2人でゆっくり博物館を見て回るのはなんだか新鮮だった。
 また、こうして並んで来たいな。
 ホルマリンに浸かった独特な形状にリアクションしたり、興味深そうに解説文を読んだり、巨大な鮫にため息をついてみたりと、また知らない辰馬さんに触れられた気がする。今度は美術館や水族館なんかに誘うのも良いかもしれない。
 出口付近は天井から水面をイメージした光が降り注いでいた。今までは暗く、冷たいイメージの照明の中を歩いて来たから、なんだから海の浅瀬にでも出てきたような気持になる。
 「今日の服、」
 年甲斐もなく、照明効果に喜んで足元がはしゃいでしまった。シルバーのミュールで数歩ステップを踏んでしまう。淡い色のワンピースがふわりと舞った。
 「なんだ、クラゲみたいだな」
 やわらかなチュール生地を見ながら、辰馬さんは言った。わたしの数歩後ろで、顎に手を当てて裾のあたりを見ている。淡い色のチュールワンピース。やわらかな裾は何枚も生地が重なって揺れている。
 「かわいいですか」
 彼がこうした感想を述べるのは珍しい。この服を選んで良かったと、声が弾んでしまう。
 「ああ、かわいい。本当に俺の女はかわいい」
 「ふふふ」
 良い女だと言いながらわたしの髪を撫でてくれた。わたしは益々嬉しくなって、彼に抱きつきたい衝動に駆られる。わたしは我慢ができる女なので、彼の太い腕に絡みつくことで着地した。ぎゅうぎゅうとわたしの腕を、体をくっつける。
 顔を上げれば、幾分も高い彼の視線が絡んでどきりとした。ああ、なんて顔をしているのだ。わたしは我慢ができるけれど、彼はそんなに我慢が効かないのである。
 「物販だけ終わらせたら、今日は帰りましょうか」
 「ああ、」
 ディナーの予定はキャンセルだ。後で2人、ピザでも頼もう。
 彼の部屋に着くなり、玄関で唇を夢中で求められた。かわいいひと。そのまま抱き上げられる。わたしの靴を器用に廊下に落としていくき、わたしをゆっくりとベッドに下ろした。
 もう、紳士の顔は脱ぎ捨てしまったらしい。捕食者の顔をした彼に、それこそ水中を揺れる事しかできないクラゲのように、わたしはシーツの海で食べられてしまうのだろう。右手が背中のジッパーにかけられる。
 わたしがこのワンピースを選んだのには理由がある。体の大きなあなたが、やりにくそうに背中のジッパーを下ろすのが好きだからだ。
 大きな節の目立つ指で、華奢なジッパーを下ろすあなたがかわいい。
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