現パロ


「なんだか、甘い匂いがするな」
 おだやかな昼下がりのことである。
 部屋で、まったりとしていた。外は太陽が地面を焦がそうと躍起になっている。一等日の高い時間の光は眩しく、とても外には出られない。クーラーと扇風機をフル活用した部屋で、狭い液晶の中の動画を一緒に見るなどしていた。2人がけのソファも、牛山さんが座ると、窮屈になる。彼の足の間を陣取って、わたしは手元の板で猫を愛でる。
 「ヘアオイルですかねぇ」
 この暑さにやられて髪をばっさり切った。美容師さんがお話上手で、うっかりヘアオイルまで購入してしまったのだ。おかげでスタイリングが楽になったし、なにより香りが良い。
 「ヘアオイル?」
 牛山さんは大きな手のひらでわたしの毛先を弄ぶ。ボブカットになったわたしの髪に鼻を寄せているようだ。控えめに摘まれたあたりの頸が露出する。そこに牛山さんの呼気を感じて、くすぐったくて、あたたかで、どきどきとした。
 「髪、随分すっきりしたよな」
 「本当、暑くて敵わなかったんです」
 「そうか、」
 「ひっ」
 頸にべろりと湿った熱が走った。空気に触れてひんやりとする。スマートフォンをテーブルに放って、体ごと牛山さんに向き直る。
 「駄目ですぅ。今したら夕飯作れなくなります」
 悪戯をした彼の頬を引っ張る。あまり伸びなくて面白味はない。わたしがもにもにと頬で遊んでいれば、彼の手が不穏な動きを見せる。スカートの上からお尻を撫で上げてくる。
 「駄目って言ってますよね、」
 「夕飯だろ。好きなもの取るぞ」
 そんな事を言いながら首筋に噛みつかれた。もう、長くもないから見えてしまう。痕はつけないでと言ってもお構いなしだ。わたしが外で真っ赤な顔になってもこのひとはなんともないのだろうか。
 「この前買ったスカーフ。あれ、短い髪に合うだろう。後で巻いて見せてくれ」
 わたしをソファの上に押し倒した。首筋に舌を這わせながら、この獰猛なおとこは言うのだ。
 「こんなうまそうな匂いをさせといて、お預けはないだろう」
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