現パロ/死ねた

 今日も雨が降っている。最近は駅までの間にある喫煙所に寄る事がルーティンになりつつある。白と緑のパッケージを開くたび、おまえの匂いを思い出しすよ。俺の真似をして吸ってたあの頃が懐かしい。煙がそのまま同色の空へと溶けていくのを見やりながら、どうしようもない気持ちを持て余している。
 コンビニで買ったのであろう、このライターはオイルが随分と少なくなってきた。買い換えるか、いっそこのまま禁煙できれば良いのに。

 先日、近所の公園に久しぶりに行った。おまえは花をよく愛でるから、青々とした芝にレジャーシートを敷いて2人で呑気に過ごしたよな。おまえが作ってきたサンドイッチ、パンの端が潰れてたけどそれもかわいかったのをよく覚えている。レタスがたくさん入っていて食感が良くてすきだった。
 ある時はゆるりと揺れる桜を、ある時は瑞々しいしい水仙を、真っ赤に染まった木々も嬉しそうに眺めていたな。春の柔らかい日差しに目を閉じてみたり、夏の木陰で影の表情を楽しんだり、俺が1人では知らなかった価値観をおまえは教えてくれた。
 空を見やれば、分厚い雲が天上を覆っている。今年は雨が長くて、公園には子ども1人いない。枯れかけた紫陽花が一身に水を浴びている情景が、なぜだかとても落ち着き、なぜだかとても寂しさを覚えた。おまえはこの花を見て、なんと言ったんだろうな。

 もう、俺はおまえがいないと駄目なようで、苦しさから以前の俺に戻ろうと夜の街に出かけてみた。おまえは良く「あなたのことは、どうしたって放っては置けない」なんて言っていたな。
 おまえを忘れようと他の女に触れようとしたんだ。おまえと似た髪型の女、おまえと同じタバコの女、雰囲気が似た女。でもな、やっぱり駄目だった。
 似ているだけじゃ駄目だった。結局俺はおまえを目で探してしまうのだ。
 おまえと付き合う前によく1人で行っていた店に行った。数年ぶりだっていうのに店内のシックな雰囲気は変わらずだった。酔いたい時、よくバーボンを飲んでいたのを思い出した。
 おかしなことにいくらグラスを空けようが、おまえのことが頭から離れない。
 「もう一杯、」
 おまえのぬくもりが手元にないことが、いくら飲んだって、俺にのしかかるんだ。ひどい女だよ、おまえは。みっともなく、臓物をアルコールで満たした俺を叱ってはくれないのか。おまえは鈍く光る銀色にはしゃいでいたのに、どうして。
 雨の日も、おまえがわらっているだけで良かった。雨粒がついた窓に、湿気でまとまらない髪を弄びながら、頬を膨らます表情を写し出す。そんな幻影をみながら電車の湿気臭さが、俺を現実へと引っ張る。

 お前が隣にいないなら、このまま目が覚めなければいいのに。そうしたら、ほら、すぐにそちらにいける。
 帰宅してそのまま、ソファに横になった。スーツにしわがよることを咎める声はない。額に手を乗せて影をつくると、血液が循環しているのを感じた。
 俺は、おまえにまだ伝えたりない。
 誓うことすらできなかった俺に、前を向けなんて言ってくれるな。
 「愛しているんだ、」
 空虚な音だけをこの部屋に残して、目蓋を閉じた。
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