現パロ
年甲斐もなく、はしゃいで買ったお揃いのパジャマでベッドに寝転ぶ。蓄光の時計を見れば、もう日付が変わっていた。
今日は彼の方が帰宅が早くて、わたしはがっつり残業だった。帰宅すればリビングの電気はついていて、少し焦げた焼きそばが用意されていた。野菜の切り方が揃っていないところが、らしいなぁと思いながらも、帰って食事が用意されてるぬくもりが嬉しい。
シャワーを浴びてしっかりスキンケアをする。彼がなんか良い匂いする、なんて言って鼻を寄せてきたヘアオイルも軽く馴染ませた。
扇風機がゆるく回る寝室には彼がネイビーのタオルケットをかぶって横になっていた。
「ただいま」
「ああ、おかえり」
小さな声で空気を震わせれば、声が返ってきて驚いた。
「起こしちゃった。ごめんね」
「いいや、扇風機、消そうかと思って」
「そっか」
ベッドサイドに置かれたリモコンを操作する。高く短い音がして、羽が止まった。機械音が止んだ部屋の中で、わたしがベッドに乗る音と、ベビーピンクのタオルケットを広げる音だけがする。
「焼きそば、美味しかったよ。ありがとう」
「お前みたいにうまくやれねぇな。焦げたし、」
「帰ってご飯があるの、すごい助かる」
「また作るよ」
彼は息だけで笑った。月明かりがぼんやりと入り込む室内で、彼の表情はよくわからない。仰向けに眠る彼の輪郭を目でなぞれば、まぶたの先が見える。目を閉じているのだろう。健やかな呼吸がわたしの左側から感じられる。
寝てしまったのだろうか。
「おやすみなさい、」
彼の手の甲のシワを撫でてみる。なんとなく安心する。わたしはこっそりと彼のぬくもりを得るのがすきだ。薄暗い天井を見やって、目蓋を閉じた。とろりとろりとねむりの足音がする。指先をぬくもりで包みこまれたような気がした。
「おやすみ、あいしてるよ」
霞のなか、そんな彼の声が聞こえた。知っているよ。わたしもあいしてる。