未来捏造、家族構成などの捏造有。
死ネタ。
side T 1月
偶々通りがかった公園は、彼女とダラダラと話し込んだ場所だった。
夏はアイスを溶かしながら、冬は悴んだ手に温かいミルクティーを握らせて、冷えるからと言ってももう少し、もう少しとなんだかんだずいぶんと話し込んだ気がする。
どれも大した内容ではなかったのだ。
図書室にリクエストした本が入れてもらえた、弟の新しいスキンケアのCMがかわいい、身長が2ミリしか伸びなかった、夜更かしして観た映画の結末が悲しくて立ち直れない、もう少しだけ話していたい。
手を繋いで送り届けてたのはもう1年以上前のことになる。少しでも一緒にいたいと言った彼女に仕方ないと付き合っていた自分こそ、彼女を帰したくなくて、柄にもなく離れ難くて、しかしそれを口にすることはできなかった。
薄暗い公園にはもう子供の影もなく、忘れられたスコップと小さな山の跡だけが寂しく温もりを溶かしていた。
17時のチャイムは駅を出た時に聞いた気がする。
「ただいま、」
「 」
すっかり習慣になってしまっている挨拶は空に消えてしまった。電気の付いていない部屋の虚しさだけが返ってくる。
あきらがあった方がいいと言って買ってきた玄関の鏡。酷い顔をしている自分が写っていた。
桜庭は大丈夫だろうか。
あいつは姉を慕っていた。なんて、遠いところで思った。
side S 1月
姉はやさしいひとだった。
オレが母の髪色、姉は父の髪色、似ているなんてあまり言ってもらえない姉弟だったが、同じタイミングでわらったり、前髪の癖がなかなか直らなかったり同じをたくさん持っていた。
大事なやさしい姉と同じをたくさん持っている自分を愛していた。
無機質なリノリウムにぼんやりと反射する白い照明。薄暗く長い通路。姉さんが体調を崩してから何度も訪れた場所だが、どうも現実味がない。
姉さんに似合うあたたかな黄色も、好んでいた明るい音楽もどこにもないここが姉さんの最後なんて。
父も母も姉さんから離れなかった。
父は姉さんと同じ黒い髪に白いものが混じり、背中が小さく見えた。いつも気丈な母は姉さんに似た笑顔を見せない。
現実味の無さが、姉さんの死としてのしかかる。