現パロ


 「ちょっとぉ、何これ」
 「知らない。気付いたら買ってたの」
 「ひどい顔だね」
 勝手を知ったように白石はわたしの部屋に入ってきた。
 「バイトの後でしょ。消化を手伝ってよ」
 鼻を啜りながらシュークリームを開ける。白石はキッチンに向かった。しばらくしてマグカップを2つ並べて帰ってくる。
 「今日は楽しいシュークリームパーティーです。白石くんはこれが無くなるまで帰しません」
 「えぇ〜」
 わたしにカップを渡して隣に三角座りをする。カップにはコーヒーが入っていた。なんだ、気が利く。
 「あ、これ美味しい」
 「本当だ。なんか気付いたら買ってたけど美味しくて助かったわ…」
 「この量で味微妙だったら目も当てられないからね」
 8個ほどのシュークリームの山。別にわたしも白石も大食いなわけでも、度がすぎる甘党なわけでもないのだ。パイシューにクッキーシュー、チョコレートのコーティングに、期間限定の抹茶味まである。スウィーツ食べ放題のような、シュークリーム食べ放題のような机上だ。
 でも、そんなワクワクするような、目を輝かせるようなものではないのだ。
 「で、あきらちゃんは何があったわけ?」
 「クソ男が…」
 「クソ!?」
 あきらちゃんがクソって言った。などと白石は驚愕している。わたしは普段から汚い言葉を使わないし、どちらかと言えば言葉遣いは丁寧だ。それは別にどうでも良いのだ。話が進まない。
 「クソ男が浮気してたから、今日会った時に問い詰めたの。でなんか、理解できない理屈で言い訳をしてきたの…」
 「浮気ねぇ」
 「別れたくないって言われたんだけど、別れたいし、意味がわからないって伝えたんだよ。そしたら、その、なんか表情がかわいくないとか言い出してさ。なんか、わたしめっちゃ冷めてしまって、なんでだろ、煩い、虫みたい、喚くなって、思ってたら、その、手が出まして」
 「は?殴られたの?」
 「違うの。パシんと、軽く。軽くだよ。肩をね、わたしが、叩いちゃった。たぶんね、反抗的なのが気に食わなかったんだろうね。お前なんて願い下げだ。なんて言われた。さっきまで別れたい、とかどの口が言ってたのかなって」
 「叩いたの?」
 「叩いちゃったの」
 やってみて、と言われたので、こう、って言いながら白石の肩に右手を向けた。軽い音がする。白石は目をパチクリとさせている。
 「これ叩いたうちに入らないよ。ハイタッチの方が痛いくらいだもん」
 「そうなの?」
 白石は頷く。そういうもんか。
 「なんかね、問い詰める気ではいたけど今日はかわいいスカートで出かけたんだよ。一応、彼氏に会うって名目だったし。で、なんか、わたしが振られたみたいになってるの、よくわからない。よくわからないし、手が出た自分にも驚いたし、なんで虫みたいな小さなひとに時間を浪費してたのかもよくわからない。悶々としてたら駅前でたくさん買ってた、」
 カスタードの甘さがしんどくなってきた。そろそろ体液がカスタードと生クリームになってしまう。クッキーシューはおいしいけれど、コーヒーがあっても、さすがにきつい。
 「あきらちゃんはこんなに良い子なのに」
 「ごはんあげるし?」
 「いや、まぁそれもあるけど。俺にこんなに優しいんだよ。遊びに来ても嫌な顔しないし、バイトや学校も一生懸命だし、明日子ちゃんにも好かれてるし」
 「悪い気がしないな」
 「褒めてるからね。だからそんなドクソ男に引っかかってないで、あきらちゃんを大事にするひとのことだけ考えてればいいと思う」
 「白石…」
 俺のこととかね。なんてウインクをする。
 わたしは手にしていたクッキーシューを一気に食べて、4個目を手にした。大口をあける。
 「頑張って食べるから明日は散歩に付き合ってね」
 「えー。お昼まで寝てたい」
 「カロリーとか考えたくないもん」
 白石はわたしに優しいから、きっとついてきてくれるだろう。とりあえず、これを食べたらこの件は精算だ。
 「そういえば、杉元がうまいラーメン屋見つけたって」
 「えっ今度行こう」
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