突然だが、わたしはかわいい。
 かわいくいるために努力もしているし、かわいくありたい理由も明確にある。

「だぁ、ウッゼェ」
「ひどぉい」

 この男、幼なじみ様に向かってこの対応である。
 艶々のネイル、ふんわり調教されたカールの髪の毛、万札の入ったお財布もこの男のためにいつも装備しているのに、なんてひどい。

 雨上がりの繁華街は、地面にネオンが反射していつも以上に目にうるさい。湿気を纏った空気と、混ざった飲食物やアルコールの匂いがまとわりつくのは不快である。
 24時を13分回った現在、よろよろと歩くサラリーマン、駅前にできたタクシー待ちの列、帰っていく居酒屋のキャッチ。

 「いいじゃん。わたし持ちだし、お金あるし、ほらちょっと歩けばホテルじゃん」
 「なんでテメェとホテルなんか行かなきゃならねぇんだよ」
 「かわいいわたしとホテル行く以外なにかあるの?わたしめちゃくちゃかわいいよ?ホテル行こう?」

 阿含くんの黒いシャツの裾を握れば、うぜぇ、と振り払われた。

 「どんなに化粧厚くしようが、テメェの元知ってるから勃たねぇよ」

 女の子に言う台詞じゃない。
 そのまま阿含くんはスマートフォンを取り出して、どこかに電話をかけはじめた。電話口から甘い声がする。今日もわたし以外の女のところにお泊りする気のようだ。
 わたしの方がかわいいのにね。
 惨めさを噛みしめながら彼の背中を拳でぐりぐりする。こんなに好きでもむかつくものは、むかつくのである。
 すぐに大きな手に捕まえられて、グッと握られる。
 きっと大して力を入れていないだろうに、びくともしないし、ちょっと痛い。むかつく。
 そのまま、ぐい、と引っ張られ無様に足を縺れさせてしまった。それを見た阿含くんはわたしを軽く見て軽く鼻で笑う。
 「相変わらずトロクセェ…」
 そのまま引っ張られ前のめりのまま進む。
 比較的明るい駅前まで引きずられていく。
 「ほら、あきらはラブホよりこっちだろ」
 軽く笑われながらネットカフェの前に置き去りにされる20代女性…。悲しい。
 怠そうに歩く阿含くんの背中を見ながらその辺のお兄さんでもひっかけようかと迷ったが、どっちにしろ惨めで辛くなるから大人しくネカフェに収まることにする。
 阿含くんはこの後明るい髪の毛とセックスするんだ。なんて羨ましい。
 阿含くんはこの世に女がわたししかいなくてもたぶん、絶対、わたしとセックスしてくれない。

 艶々のネイル、ふんわり調教されたカールの髪の毛、万札の入ったお財布もこの男のためにいつも装備しているのに、なんてひどい。
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