大学時空
「何がいけなかったのかなぁ、」
「知らねぇよ」
冷たくなぁい。なんて眉を下げるコイツに呼び出されたのはつい数時間前のことだ。
「なんかねぇ、付き合ってみたらなんか違った、とか言われたんだけど、勝手な理想を押し付けるなって感じ」
一人暮らしのコイツの部屋には空けられたアルコールの残骸が転がり、ムカつくとか苛々しながら頼んだ冷めたピザが狭いテーブルを埋めていた。
付き合いが長いとはいえ、こんな呼び出しに毎回応じる俺のことを少しは考えて欲しい。
明るい髪色も、ふんわりとした色味の化粧もここ数ヶ月で見慣れた様な気がする。
「そういう自分を見せてたんだろ」
「そうなんだけどさぁ」
もう何年もなにかあると俺を呼び出してわんわんと泣くのだ。成人してからはそれにアルコールが含まれて更に厄介になった気がする。外面ばっか良いからこんな姿を見せられるのは俺だけだ、なんて少しの優越感を覚えたこともあった。
弱った姿を見せてくれる事が、年々残酷に、やさしく俺の首を絞めてくる。
「俺はいつものオマエの方が良いと思う」
「なに、十文字口説いてる?」
「あー、はいはい、かわいいかわいい」
「ふふ、ありがとう」
化粧の溶けたその顔に10代の面影を拾ってしまう。
この都合の良い距離感を覚えてしまった俺はまだ動けないでいる。
「最近のピンク?の口紅か?俺、あれは微妙」
せめての反抗を投げ掛ければ、十文字のためにつけてないし、なんて言いながらまた瞳を濡らした。