「どうしてもダメか」
「えっと、」
ダンデさんは眉を下げ困った顔をする。
バトルタワーの運営など忙しく働く彼と久しぶりのお泊まりだ。わたしも彼に甘えたいし、疲れている彼をうんと甘やかしたい。強くてかわいい彼氏をぐずぐずに甘やかしたいとも思う。
「わかりました」
「ありがとう」
お風呂を共にしたいと言われたのは、夕飯を作っている最中だった。わたしが用意しているときにシャワーを勧めたが一緒に浴びよう。湯船にも湯を張って2人で入らないか。と誘われた。わたしが渋っている間に浴室の準備は終わり、夕飯を片付けた後に再度問われたわけだ。
ダンデさんの願いを渋ることはあっても、わたしは基本断れない。彼のあの顔に弱いのだ。普段の凛々しい雰囲気とのギャップが恋人補正を抜きにしたって刺さりすぎる。こうかはばつぐんだ。きゅうしょにあたった。
彼に腕を引かれ脱衣室に連れて行かれた。からだを重ねたことだって、何度もあるのに心拍数が上がるのは何故だろう。
ダンデさんがシャツのボタンを取り去る。左の手首から順に、丁寧に外していく。そのまま洗濯機に落とされる。インナーシャツをぐいと豪快にまくりあげれば、張りのある筋肉が主張する。なんとなく、ダンデさんのにおいが強いような気がする。
わたしは上がった心拍数や視界の暴力、彼のにおいに意識を持って行かれて脳から変な汁が出ているようだった。
「脱がないのか」
彼はもう下着に手をかけていたが、わたしは彼をぼんやりと見つめたまま中途半端にブラウスを乱していた。
「そんなに見るなら触るか」
彼はわたしの右手を手に取り、胸元に置いた。どくどくと生を感じるし、少し汗ばんだ肌があたたかくて心地よい。一瞬そんな事を考えたが、慌てて手を離してブラウスに戻した。
ダンデさんが軽く笑う声が聞こえるがわたしは自分の爪先を見ながらブラウスを脱いで、スカートを落とした。混乱した上に、恥ずかしさでヤケになっているのである。
キャミソールを剥げばパステルカラーのブラジャーが胸を包んでいた。
「恥ずかしいので先に行ってください」
「今更か」
「今更でも、です」
「わかったぜ」
ダンデさんがぼんやり明るい浴室に入っていった。ああ、覚悟を決めなければ。
うだうだしても仕方がないと、残りを一気に脱ぎ去り、まとめて洗濯カゴにまとめた。
「お邪魔します」
「待ってたぜ」
ダンデさんはわたしの手を取り抱きしめた。
しっとりとした肌同士が触れ合う。先程手で触れたときとは比でない。彼のあたたかさにつつまれる。足の裏だけ、浴室特有のひんやりとした冷気を感じる。その感覚がわたしの羞恥を自覚させてくる。
こんなに密着して、こんなに明るいところで、
「明るいので、恥ずかしい、」
「君は恥ずかしがっていてもかわいいな」
耳元でそう言われたと思えば肩に噛みつかれた。肩を噛んで、首筋をなぞって、唇にいくつもキスを落とす。
彼でいっぱいになる。
足元の冷気なんて、もう気にならなかった。
夢中で彼に応えていれば、不意に唇が離れていった。
「あきらシャンプーは、これだったよな」
「それ、ありがとう、」
ダンデさんは先ほどまでの熱などなかったようにシャワーを出し始めた。
「ちょうど良くなったぜ、シャンプーさせてくれないか」
「せっかくだからお願いします。わたしもお返しするね」
「ああ。よろしくな」
後頭部からゆっくりと熱で溶かされていく。気持ちの良い指の感覚を覚えながらも、わたしは先ほど付けれれた熱を誤魔化そうと少し考え事をしていた。髪のトリートメントを丁寧に行ってくれている。あたたかなシャワーでとろとろと流れていった。
あろうことかダンデさんの手はボディーソープに伸びていた。ぼんやりとしていたわたしは気づかず、彼の大きな手がわたしの肌を滑る。
「ひゃっ」
背中側から彼は首を丁寧に撫でた。肩をまあるくさわり、腕に進む。
「ダンデさん、自分で洗えます」
「遠慮するな。俺がやりたいんだ」
「いや、でも、」
「イヤか」
そんな聞かれ方をすれば首を振るしかない。
背中を彼の両手がなぞる。肩甲骨で円を描く。肩甲骨からゆっくりと下る。
「ふふっ」
「くすぐったかったか?」
「脇腹弱いんです」
ダンデさんは脇腹をそろそろとなぞる。
わたしはくすぐったさに身を捩るが、彼から逃れられない。脇腹から正面に手が回ってくる。
「こっち側は届きます!」
「遠慮しなくていいんだぜ」
「あっ」
なんとも強引だ。背後からわたしを抱きしめるように腕を回す。彼の肌が、わたしの背中に触れる。