わたしの最後の舞台は、イエローのペンライトで埋め尽くされていて、星空を地上に落としたような感動を得た。わたしの声に合わせて星々は揺れ動き、わたしはこの光景を忘れる事はないのだろう。

 明けて、わたしは本日よりニートである。
 事務所の契約は昨日で終わり、次の仕事が決まるまで貯金を使いながらゆっくりしようと思っている。まずは自宅の掃除がしたい。ポケモン達もゆっくりさせながら今後のことを考えたい。
 小雨が降っているので窓も開けられない。レースのカーテンから入る光は重たいけれど、明るい芸能生活との切り替えには適していると思えてきた。
 目下、わたしを悩ませている問題が1つ。

 1年前になる。うっかりアルコールの許容量をオーバーしてしまい、信じられない事に推しに重たい男宣言をいただいたわたしはどうするべきか。
 その後、ネズさんとは連絡先を交換したものの、今まで通りの距離感(あんな事があったわけなので、わたしの方はかなり動揺して接していた)のまま現在に至る。卒業の旨は、先々週のイベントの時のご挨拶事と、各社宛に送ったメールで知ってはいるだろう。
 あんな距離で彼の肌の匂いを知ることは夢だったのではないか。そう感じてしまう事もあった1年間。わたしだけが期待していたらどうしよう。
 なにか、手を動かしていないとそんな事を考えてしまう。
 昨日いただいたファンレターやプレゼント、お世話になった方からのお花、華やかさのにおいがするものたちを少しずつ整理していく。
 「花瓶、足りるかなぁ」
 大きな花瓶もすぐに埋まってしまい、空き瓶やお皿、コップを花器として駆り出した。甘い香りが家中にする。このナックルシティで1番いいにおいがする部屋じゃないだろうか。

 そんな作業の最中、高い音が鳴った。モニターが光っている。カメラを立ち上げればわたしは驚きすぐに彼を敷地に入れた。
 本当に来てくれた。待っててくれた。
 緊張と嬉しさで心臓がどうにかなりそうだ。くらくらする。よろよろと玄関まで行き、ドアスコープの前で待機する。
 あぁ、でも、本当に、
 彼が目の前に来たタイミングでドアを開けば驚いたような表情をした。

 「…、」
 「約束通り、1年待ちましたよ」
 「はい、」

 彼を室内に誘導する。
 彼のにおいと何かやさしいかおりに包まれた。
 「ネズさん、」
 「1年、待ちました。待ってました」
 「はい」
 靴も脱がずに抱きしめられ、わたしの鼓動はきっと彼に伝わっているのだろう。ぬるい体温がわたしに伝わり、わたしは皮膚の内側から熱を発する。
 「今度こそオレのものになってくれますか?」
 「もちろんです」
 やさしい瞳でわたしを見つめ、今日は唇に熱を落とす。何度も、何度も触れ合う。
 わたしも、彼も1年間待った分、それを埋めるように。
 彼の左手には黄色いアカシアの花束が握られている。
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