男装監督生夢主
あきらはきっと、エースが来ても同じようにするのだろう。
グリムと同じような扱いなのか、それとも安心し切っているのか。
僕が君の秘密を知っているなんて、思いもしないのだろう。
自分で提案しておいて、今夜は眠れそうになかった。
◇
「監督生、泊めてくれないか」
「またぁ、明日デザートを奢ってくれるならいいよ」
22時を回ったあたり。宿題やシャワーも終えて、だらだら本でも読むかと棚を漁っていた。
我がオンボロ寮の夜はガタガタと鳴る窓ガラスや、遠くで聞こえる何かの足音、天井が何故かみしみしと鳴るのを聞きながらの就寝となる。陽気なゴーストたちが動き回っているだけだと知っていても、未だソワソワとしてしまい入眠には時間がかかってしまうのだ。そんなとき、読書は音も気配も忘れられ途中で思考をとろりと溶かしてしまう良い手段だった。
「明日はプリンの気分な気がする」
「わかったよ」
デュースがこうして泊まりに来るのは3度目である。エースと共に来るわけでもなく、きっとハーツラビュル寮の就寝時間であろう時間にそろりとやって来る。あの厳格な寮長に見つかればきっと首を跳ねられてしまうのだろう。
オンボロ寮を掃除しているときにボードゲームを見つけたので、グリムを含め3人で興じる事にした。
ゲームのお供にと、ミルクを温めて2人に渡せばグリムは数分で船を漕いでいた。
「グリム、寝るならベッドに行こう。ね?」
「…動きたくないんだぞ。あきら、ソファに連れて行くんだぞ」
「はいはい」
微睡む彼を抱き上げる。わたしはグリムを抱き上げる事がすきだ。あたたかなからだが心地よい。一緒にベッドで眠る事も好ましいと思っているが、グリムは最近ソファがお気に入りのようだ。どこからか見つけてきたグレーのクッションをたいそう気に入っている。
わたしがグリムをソファに下ろすと、デュースがブランケットをかけた。
「ありがとう。1ゲーム終わったら寝よっか」
「ああ。そうだな」
わたしもデュースも負けず嫌いな節があるから先にリミットを決めておかないと寝る時間を逃すのだ。先日は2時まで白熱してしまい、クルーウェル先生の前で船を漕ぎかけた。
「なぁ、あきら」
「なぁに、」
「ひとつ、賭けないか?」
買った方の言うことを1つ聞く。なんて、どうだ。
デュースは不敵な笑みを浮かべる。
「乗った」
自信満々なだけあってデュースの勝利に終わった。
「今日、一緒に寝てくれないか」
「は?」
隣の体温に思う。
彼には胸の膨らみも無い。手はわたしより大きくてごつごつしている。並んでベッドに入ってみれば、身体の大きさが違うことをまざまざと見せつけられた。
「映画が怖かったって、デュースもそんな事あるんだね…」
「うるさい…」
「ふふ、おやすみ」
わたしと反対を見るように寝返りをうった彼の背中は広い。
性差をまざまざと見せつけられてあらためて気づいてしまう。
わたしは男性として生活しているから、この距離に甘えられるのだ。
デュースが事実を知れば夜に遊びに来る事も無くなる。きっと勢いで肩を組んだり、こんな特殊な状況だって生まれるはずがないのだ。
ベッドは狭いのに、寂しさを覚えながら目蓋を閉じる。