どうしてこうなった。
あきらは軽く頭を抱えた。
イベントも大盛況で終わり、トレーナーカードやグッズも飛ぶように売れた。
目の前に推しの寝顔がある。
なんでわたし、ネズさんとベッドにいるのか。
あきらは こんらんした。
白い光がカーテンの隙間から漏れる。もう朝なのだろう。混乱したままあきらは自身の状態を確認した。ここは、モンド・ロゼの部屋だろう。部屋にはわたしとネズさんしかいない。そしてネズさんは隣で寝息をたてている。推しの寝息、彼が生きてる事が感じられて素晴らしい。彼は衣服を身につけていない。わたしは、
「どっちだ…」
バスローブを着ている。はだけてるいるが。
わたしが覚えているのはたまたまわたしは明日(今日)がオフだからシュートのブティックにも行きたいしホテルを取っていたこと。ネズさんやマリィ選手もここに宿泊するという話を聞いた。マリィ選手がホテルのレストランの夕飯に誘ってくれた。ここなら人目を気にしなくて良いからって。ネズさんとマリィ選手、ユウリ選手と夕飯を共にすることになったのは覚えている。
「何百面相してんですか」
「ネズさんっ、起きて」
「おはようございます」
おはようございますと返せば、布団に引っ張り込まれた。
ネズさんの腕の中で目を回す。
髪をやさしく撫でられているようだ。なんで、
何度も髪の流れに沿って大きな手が滑っていく。気持ち良いが、それを感受できるほどわたしは冷静ではなかった。
「すみません、あの、」
「なんですか、歯切れが悪い」
「昨日、わたし、なにをやらかしました、」
「…マジで言ってやがりますか、」
「マジです。誠に申し訳ございません。ごはんが美味しかったことしか思い出せないです」
「あ〜、アンタ昨日だいぶ飲みましたもんね」
要点をまとめるとこうだ。
やたら緊張していたわたしは(推しと一緒にディナーで緊張しない方が無理だ)おすすめと書いてあったワインばかりあおり、アルコールのキャパシティを超えてっしまったそうだ。その頃にはマリィ選手たちは部屋に戻っていたため、醜態を晒したのはネズさんだけで済んだらしい(1番まずい)。部屋まで送ろうとすると離れたくない、やっとネズさんに触れられただの月9ドラマでももう見かけないようなテンプレートで彼の
腕に纏わり付いたらしい。通路で騒がれてもどこで見られているかわからないためとりあえずネズさんの部屋に連れてきた、とのことだった。
「大変なるご迷惑をおかけしました。それで、あの、ワンナイト的な」
「オレはほとんどそのつもりで連れ込んだんですよ」
「え、」
「アンタときたら、オレのことは死ぬほどすきだとぬかすのに、卒業までは処女でいたいとか言いやがる。シャワーだ浴びさせて生殺しですよ。アイドルのわたしを殺すことはできないって言い張って」
彼の骨張った手が頬を滑る。
壊れ物を扱うかのように触れられたと思ったら、突然鼻を摘まれた。ふが、とか、そんなかわいくない音が漏れて恥ずかしい。
「待ってやりますよ。1年くらい」
「1年?」
「アンタが昨日言ってましたよ。それとも出任せですか。卒業まで後1年っていうのは、」
「え、いや、本当です」
「じゃあ問題ねぇですね」
ネズさんはわたしの額にキスを落とした。
なんてやさしい顔をするのだろう。
「あの、わたし、ネズさんの気持ち聞いてないです」
「そういや言ってませんでしたねぇ。すきですよ」
目を細めて笑う彼に朝の光が落ちる。睫毛の影が見える距離で愛を囁かれたわたしのキャパシティはとっくにオーバーしていてただただ目を逸らすことしかできない。
「1年後、覚悟しててください。オレは重たい男なんで」