酒は飲んでもなんとやら

コーヒーのいい香りで目が覚めた。身体を起こし、寝ぼけ眼を擦る。うっ、頭がガンガンする。さすがに飲みすぎた。こめかみを押さえながら、瞬きをひとつ。見慣れない部屋、いつもと感触の違うベッド。覚醒しつつある意識の中で、わたしはあることに気づいた。


「もしかして、ここ、わたしの家じゃない?」
「そりゃそうだろ」


俺の家だからな。

そう言って水の入ったグラスを差しだしてきたのは、同僚で1つ先輩の松田さんだった。ついでに言うと絶賛片想い中の相手でもある。とりあえずグラスを受け取り、水を一口飲んだところで、完全に目が覚めた。


「……なんでわたしは松田先輩の部屋にいるのでしょうか」
「覚えてねぇのかよ」


二日酔いで痛む頭をフル回転させ、昨夜の記憶を呼び戻す。たしか松田先輩と同期さんの飲み会にお呼ばれして……めっちゃ飲んだ気がする。今日が非番だからといって調子に乗った気がする。それ以外の記憶がまったくない。


「酔い潰れたお前の世話を任されたんだよ」


居酒屋から一番家が近かったこともあり、わたしを介抱するように言われたらしい。いや、本当に申し訳ないです。そして死にたい。何が悲しくて片想いしてる相手にこんな醜態を晒さなければならないのか。深い溜息を吐き、改めて自分の置かれている状況を確認。そこでさらに恐ろしいことに気がついた。

わたしの着ていた服はどこ?え、なんで男物のスウェット着せられてるの。もしかして先輩とワンナイトなラブ……しちゃった?いやいやいや、さすがにそれはないでしょ。……え、ないですよね?


「あの、わたしたち、何もしてませんよね……?」
「さぁ、どうだろうな?」


意味深な笑顔を添えて、そんな試すようなことを言う先輩。わたしは血の気が引くのを感じた。



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bkm