世界がふたりぼっちなら

「これからしばらくの間、会えなくなる」


ごめんな、と零す彼は寂しげな笑みを浮かべていた。


「もし俺より好い人を見つけたら、そのときは俺のことなんて忘れてくれればいいからさ」
「やめてよ、景光。冗談にしてはタチが悪すぎる」


夜遅くに呼び出しておいて、そんなフラグみたいなことを言う恋人に腹が立った。これじゃあまるで、二度と会えないみたいじゃないか。どこへ行くのかも、会えなくなる理由も、何も言わずにわたしの前から消えようとする彼の姿がグニャリと歪む。気づけば涙が溢れていた。


「……わたしね、時々思うんだ。この世界がわたしと景光の二人きりだったらいいのにって」


そしたらずっと一緒にいられるのに。

叶うはずのない願いを口にすることを、子どもじみた我儘を、今日くらいは許してほしい。


「俺も……、俺もそう思うよ」


そう言ってわたしを抱きしめる彼の体温を、わたしは絶対に忘れないだろう。




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bkm