宛先のない手紙

今日も今日とて、わたしは彼に手紙を書く。宛先のない手紙。決して届くことのない手紙。書いたところで読んでくれる相手のいない手紙を、わたしはあの日から毎日書き続けている。内容はその日の出来事だったり、親友の松田さんの近況だったり、そんなありふれた日常。そして手紙の最後は、必ずこの言葉で締めくくられる。

「萩原さん、あなたに会いたいです」

そう綴られた文字は、雨に濡れたように滲んでいた。


prev next

bkm