鬼灯さんの懇切丁寧な説明をまとめると、つまりこういうことらしい。
わたしは誰かに殺され、死んだ。そして本来なら亡者として地獄で然るべき沙汰を受けるはずだったという。しかし捨て置かれたわたしの亡骸に鬼火が宿り、晴れて鬼に転生というわけだ。
「どこの御伽噺だよ!」
「貴女のことですけど」
「これって夢オチでしたっていうパターンじゃないですよね」
「夢かどうか確認してみますか」
「遠慮しておきます」
そう言って柱に立てかけてあった金棒を手にした鬼灯さんを見て即答する。あんなモノで殴られたら目覚めるどころか永眠するわ。
「何か質問は」
「質問しかないんですけど」
「でしょうね。どうぞ、何でも聞いてください」
「わたしはどうやってここまで来たんでしょうか」
「私が運んだんですよ。地獄の門付近に見慣れない鬼が倒れていると連絡を受けましたので」
地獄の門と聞いて、わたしは首を傾げた。そんなものを見た記憶はない。というか、それ以前に殺された記憶もないんだよね。誰に、どこで、どうして殺されたのか。死ぬ前後の記憶がごっそりと抜け落ちてしまっている。まあ、人はショックで記憶を失うこともあるっていうし、ここは鬼灯さんに聞いてみるのが最善策だろう。
「あの、わたしはいったい誰に殺されたんでしょうか」
沈黙。ほんの一瞬だったけれど、鬼灯さんの瞳に迷いが生じた気がした。何かを隠しているような、そんな瞳の揺らぎ。けれど、わたしが口を開く前に答えは返ってきた。
「何でも聞いてくださいと言った矢先に申し訳ありませんが、我々にも分からないのです」
「…そう、ですか」
「それに貴女自身が何も覚えてないということは、今はまだ思い出さないほうが良いということかもしれません。まあ、時が経てば思い出しますよ、きっと」
そう言い切られてしまい、これ以上の追及は無駄だと悟った。それにしても、さっきの鬼灯さんの瞳に見えた揺らぎ。あれはいったい何だったんだろう。すごく気になるけど、ここで食い下がったところで無駄な気がするからやめておく。
「ほかに何か聞きたいことは」
わたしの死因はさて置き。一番気になっていることをそろそろ聞くとしようか。一番知りたくて、でも知りたくない。そんな矛盾した質問を。
「じゃあ、最後にもう1つ」
この質問の答えを聞いたら、わたしは泣いてしまうだろうか。
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