見知らぬ部屋で目が覚める

目の前に広がる真っ暗な闇に光が差した。意識が浮上していく。おかしい、わたしは死んだはずなのに。どうして死んだのか、どこで死んだのか。そんな記憶は一切残っていないけれど、確かに死んだのだ。それじゃあ、これはいったいーーー



「ふぁ…よく寝た」

なんだか長い夢を見ていた気がする。まあ、内容とか全然覚えていないんだけど。ベッドから上半身を起こし、覚醒しきっていない頭を振って、寝ぼけ眼をゴシゴシとこする。感覚がはっきりしてきたところで、ようやくわたしは違和感に気づいた。

ここ、わたしの部屋じゃなくね?

いやいやいや、そんなはずはない。落ち着け、わたし。とりあえず薄暗い部屋を見渡してみた。本棚には大量の書物。それでも足りないのか、床にも多くの本が乱雑に置かれている。机には薬の材料と調合する道具がちらほら。ああ、どおりで薬品臭いと思った。あとなんか巻物もたくさん。

結論。どこだ、ここ。

え、寝てる間に誘拐されたとか?ていうかよく見たらパジャマじゃなくて、なんか着物みたいなの着せられてるし。ちょっと待って、誰が着替えさせたの。もし男だったら犯罪だろ。そもそも誘拐自体がすでに犯罪なんだけど。なんにせよ、ここでいつまでもじっとしているわけにはいかない。まずは部屋の外に出てみよう。そう思ってベッドから飛び出すと、慎重に扉を開けた。


「おや、気がつきましたか」

「ぎゃあああああお化けええええ」

「人の顔を見て叫ぶとは、まったく失礼な」


扉の目の前になんかいる!なんか怖い人いる!ヘルプミー!

失礼とか言われたけど仕方ないと思う。身長高くて、切れ長目で、仏頂面で、しかも額に角みたいなの生えてて、黒い着物で、金棒持ってる人がいきなり目の前に立ってたら、そりゃ誰だって叫ぶわ。おまけにバリトンボイス!低音!余計に怖い!


「あ、あの」

「質問なら後ほど聞かせていただきますので。ひとまず、これにお着替えなさい。女性が寝間着で歩き回るものじゃありませんよ」

「え、あ、はい」


死ぬほど勇気をだして話しかけたのに、質問する間もなくあっさりと遮られた挙げ句、いきなり着物を手渡されました。ちょっと意味がわからない。それから唐突に両肩を掴まれたかと思うと、ぐるんっと半回転。再び部屋に押し戻された。


「着替えが済んだら出てきてください。私はここで待っていますので」


そう言って背を向ける切れ長目の男。あ、そうだ、着替えで思い出した。わたしが寝てる間に着替えさせたのって、まさかこの人!?だとしたら恥ずかしすぎる。待って待って。わたしは顔を真っ赤にして、いまにも閉まりそうな扉に手をかけた。


「着替え、手伝いましょうか」

「なっ!!?」

「冗談です。貴女を着替えさせたのも女性の方ですので、ご安心を」



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