いつからだろう、彼を目で追うようになったのは。
確か、去年の夏の、終わりだった気がする。
じゃあ、いつからだろう、彼の事を好きと、"恋心"を抱き始めたのは。
きっと、目で追い始めた、その時から。きっと、全部、その時に始まったんだと思う。






「あ、佐助君。おはよ。」

彼とはあいさつを交わし、たまに会話をする程度の仲。
それ以上でも、それ以下でもない。
一定の距離。

「おはよ。」

そう言って彼は私に笑顔を向けてくれる。
それに対し、私も笑顔になる。
「どうしたの?幸せそうな顔しちゃって」

そう言うと彼はますます笑顔になり仄かに頬を染めた。

「んー分かっちゃうかーでも今はまだ内緒っ!!」

意地悪げに両目を狐の様に細めて笑う。そんな彼に見蕩れてしまう私はかなりの重傷だと思う。

「今度、教えてね?」
「今度、ね」

そう言って彼は先に教室へ入って行った。
その後ろを追うようにして教室に入ったけれど、すでに彼はみんなの輪の中心に居て。
"次元が違う。"そんな言葉が頭を過ぎった。









「あ、雨、だ。」


下校時間になって雨が降り出した。
今日、傘持ってきて良かった。そう思って傘を広げた。



自分の横を何人もの生徒が追い越して行く。私は自分のペースでゆっくりと歩く。
もう少しで校門をくぐる、そんな時、彼の声が後ろから聞こえた。

ゆっくり振り向けば傘の端っこから見える、彼の顔。





と、可愛らしい女の子。
仲睦まじく歩いて行く二人。




私の存在には、








気付かない。


仲睦まじい二人が私の横を通り過ぎる、その瞬間、
雨の音に混じって近くで水が零れ落ちる音がした。



"今はまだ内緒っ!!"



あぁ、そうか。
だから、あんなに幸せそうだったのか。

幾つもの零れ落ちる音。頬が、身体中が冷たく濡れていく。

いつの間にか傘は地面に落ちていた。

私の涙も

地面に落ちていた。






あぁ、貴方が





でした、




(次、会うときは笑っていたい)(だから、今ここで涙なんて枯らしてしまおう。)
(あぁ、もう今年の夏も、終わり、か。)





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