小さい頃、何時も一緒に遊んでいた彼は気が付いた時には既にイケメンと呼ばれる部類の人間になっていた。

そんなイケメンな彼には可愛い女の子達や派手な男の子達が似合う。

彼の周りは何時も煌びやかだった。

だから、幼なじみである私は当然な事の様に中学の半ばから彼の事を避け始め、彼の事を佐助から猿飛くんと呼ぶようにした。



高校生になってから16ヶ月が経った高校2年の夏休み間近。放課後うっかりと忘れ物をしてしまい教室に取りに戻ったとき、彼が私の事を嫌い、と言っていたのを聞いた。当たり前の事だ、と思った。私という幼なじみが居れば彼というブランドに傷がついてしまう。だから私は今まで以上に彼を避けよう、と思った。

何故か、その時聞いた彼の嫌い、と言う言葉とその周りの汚い笑い声が耳について離れなかった。



夏休みが明け、定期考査前。今回は範囲が存外広く、連日遅くまで勉強していたため、何時もに比べて若干目の下にクマが出来てしまっている。まあこれも想定の範囲内だった為、特に気にせず高校生活を送っていた。それに私は一々目の下のクマを気にする程女の子じゃない。教室を移動しようと廊下を歩いていると猿飛くんを含むグループが屯していた。たまに見かけはするがこうして擦れ違う事など無かったので少し緊張で身体が強張った。

擦れ違う直前、グループの誰かが私に気付き隣の誰かに耳打ちしているのが聞こえた。私に聞こえないように言ったつもりなのだろうが私の耳にはハッキリと「ヒドい顔」と言っているのが聞こえた。勿論その後の嘲笑いが滲むような笑い声も。反論した所で何コイツ?な反応が返ってくるのが見え見えな為、無駄な事はしない。第一、する気も起きない。関わって面倒な事になるのが嫌なので足早に立ち去ろうと努める。

「ねぇ、アノ子、佐助の幼なじみなんでしょ?」

猿飛くんの隣でベタベタしていたいかにもギャルな可愛い女の子が猿飛くんの耳元で甘い声を出してそう聞いていた。

「ん?違うよ?」
「あっれぇ?そうだっけぇ?」

猿飛くんの一言にさっきまで耳打ちし合っていた人達が嘘だろ?みたいな顔をした。

「あんな子が俺様の幼なじみな訳、ないでしょ。」
「きゃははっだよねぇ!」

甲高い声が耳をつく。その後も何か話していたみたいだけど廊下の角を曲がったので聞こえなかった。

「…はぁ。」

思わず溜息が漏れた。

「どうかなされたか、深零殿」
「うわぁっ!?」

いつの間にか隣に出現していた真田くんに思わず変な声が出てしまった。

「…少し、声がはしたないと思われまする。」
「あ。ごめん。」

軽く咎められ慌てて口を手で押さえる様にして閉じる。

「……それで、どうかなされたのか?」

一瞬何コイツみたいな目で見られたけれども私はそんな事には動じない!なんてったって深零ちゃんはちょう心の強い子だからね!

「かわいそ…」
「ごめんなさい!嘘です!」

どうやら真田くんは心が読めるようです。私の心は読まれてしまいました。

「で?」
「…で、と言いますと?」
「…はぁ。深零殿は人の話を聞かないのだな。どうかなされたのかと聞いておるのだ。」
「あぁ…えっと…」
「大方、佐助絡みであろう。」
「……。」

どうやら真田くんは本当に心が読める様です。それとも、私の心は読みやすいのでしょうか。どちらにしても真田くんの言った事は本当の事なので黙って頷いてみた。

「深零殿、案ずる事は無い。あやつは少しばかり不器用なだけだ。」
「へ?」
「少しばかり、不器用なだけなのだ。だからあと少し、待ってやってはくれないか?」

待つ?何を待つと言うのだろう。

「ねえ、真田くん、待つって何を…」
「それでは失礼する。」
「えっ…」

それだけを言って真田くんは行ってしまった。

「何なんだろ…」

気にする事は無いか、と歩き始めた所で気付いた。

「授業始まるまであと1分、だ…」

深零が今現在居る場所から目的の教室までは5分以上かかる。どう足掻いても1分では着けない。どうしようかと1秒程度考えた後、諦めて自習教室で自習する事にした。ただサボるよりはマシだろう。

授業中なので静かに自習教室の戸を開ける。

誰も居ないだろうと思っていたが窓際に一人居る事に気がついた。

私の様に授業に遅れたのか、はたまた只サボっているのか定かでは無いが、机に突っ伏して眠っているのは確かだった。

疲れているのだろうと思い、起こさない様にそっとその人から一番遠い席につく。教科書を広げた際にシャーペンが落ちてしまった。

拾おうとし、気付いた。

一つ、突っ伏して眠っていた人が起きていた。

一つ、突っ伏して眠っていた人は私の知っている人だった。

一つ、突っ伏して眠っていた人は……







………――――、猿飛佐助だった。







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