「深零ちゃん」


私の名前を呼びながら駆け寄って来る彼の今日の目的は只一つ。


「チョコ、頂戴!」


今日は全国的にバレンタインデー。お菓子会社の陰謀だと知ってか知らずか佐助は私の元へチョコレートをせびりに来た。


「…買ってくれば?」
「ちょっ、深零ちゃんから貰うから意味があるんでしょうが!…もしかして…無い…の?」
「ぎく」
「…ぎくって口で言ってる人、初めて見たよ…その様子じゃチョコは無いみたいだね…」


友達に、とチョコを買いあさっていたら佐助の分を忘れてしまったのだ。決して故意に買わなかったのではない。


「あの…さ。別に、故意に忘れた訳じゃない…よ…?ただちょっと友達の分を買ったらお金と共に出て行っちゃって…だから…その…無いです!てへっ!」
「…俺様には語尾に星が見えたよ深零ちゃん…」


気のせいよ、とあしらえばしょうがない、とか言って鞄を漁る佐助。
中を覗こうとしたが佐助にえっち!とか訳の分からない事を言われたので諦めた。


暫く漁っていると何かを見つけたのかあった!と嬉しそうな言葉を漏らす佐助。


「はい、ハッピーバレンタイン!」


そう言って渡されたのは綺麗にラッピングされた小さな箱。


「…えっと……は?」


状況が理解出来ずに呆けている私は相当間抜けな顔をしているのだろう。


「ホントはね、交換したかったんだよ?だけど深零ちゃんは忘れてるかな、って。だから、お返しはホワイトデーで、いいよ。」

ちくしょう。佐助、お前は可愛い彼女か何かか。


「深零ちゃんが相手ならそれでもいいかなぁ〜なんて。」
「…何故考えてた事が分かった…」
「いや、口に出てたからね」
「くっ…!」
「え、そんなに悔やむ事なのっ!?」
「いや、そうでもない。」


下らないやりとりをしながらホワイトデーには珍しく手作りでもしてやろうか、と思った。







バレンタインの






―――ホワイトデー
「えっ!?手作りっ!?」
「そうよ、感謝しなさい。」
「一緒家宝にするっ!!」
「…いや、食べてよ…」






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