ある静かな夜。その静寂を掻き消す様な悲鳴が響き渡った。



「何っ!?何事っ!?」



隣の部屋に居た深零はその声に驚き、慌てて駆けつけた。そして、その眼下に広がる光景に一瞬息を呑んだ。そして、一瞬にして破顔した。



「あはははっ!!佐助、何してんのっ!?ふふっ…あははっ」



そこには必死に逃げ惑う情けない姿の佐助とそれを追い掛けるようにして床を動く黒光りする例のアノ虫、ゴキブリが居た。



「ちょ、深零ちゃん!!笑わないでよ!!俺様にとってコイツの存在は死活問題なんだよ!!うわっなんで俺様を追い掛けるのさ!!」



ゴキブリに追い掛け回される佐助の姿には男々しさの欠片も無く、誰が見ても女々しかった。
そして、気付いた。



「はっ…もしやこれはっ…!ゴキブリが追い掛け回してるんじゃなくて、佐助がゴキブリの前を行ってるんじゃ…」



「はぁっ!?ちょっ、そんな恐ろしい事言わないでよ!」



今にも泣き出しそうな顔でゴキブリから逃げ回る佐助は…なんと言うか…



女々しい。



深零はそこら辺に置いてあった雑誌を手に取り丸める。
そして大きく振りかぶった。



「せいやっ!!」



パァン!と気持ちの良い音が部屋に響き渡り、時間が止まる。



「っぎゃぁぁぁあぁぁ!!」



「は?ちょ、佐助うるさいっ!!」



折角駆除してやったと言うのに何悲鳴あげてるのよっ、と言う気持ちで佐助を睨む。



「何で叩いちゃうのさっ!?ゴキブリって死ぬときに卵拡散させるって聞いたことあるし…ってあああ!!それ、俺様の雑誌じゃん!!まだ読み終わってないのにっ!!第一何でこの部屋で殺しちゃうのさっ!」



「いや、だって…余りにも女々しかったから…」



「何それ理不尽すぎるよっ!?」



あぁぁ…とかうわぁ…とかブツブツ言いながら項垂れる佐助を横目に今日の夕飯の献立を考え始めた。






しい彼




「ちょ…深零ちゃん男々しすぎるでしょ…」
「いや、あんたが女々しいだけだから。」





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