振り払われた手が時間が経つにつれて痛みを増す。
それに伴って拒絶された時に感じた胸の痛みが増した気がした。

「深零ちゃん…」

無意識にその名前を口に出して呼んでいた。

「佐助?」

隣に居た旦那が怪訝な顔をして此方を窺ってくる。

「あ、いや、何でもないんだ。」

無意識に人の名前を呼ぶなんて俺様らしくもない。

「本当になんでも…ないんだ…」
「…そうか、」

本当に、俺様らしくない。






「どうした?」
「え?」

球技大会を終え、何日か経ったある日、屋上でかすがと昼食をとっていたら急に話を振られた。しかし、なんの事だか全く分からずに口から間抜けな言葉が漏れた。

「何の事か分からない、とは言わせないぞ?」

かすがの真っ直ぐで真剣な目。その奥に見えるのはいつしか見た優しさの溢れる心配の眼差し。
漸くなんの話を振られているかを理解した。

「猿飛くんの、こと?」

しらばっくれるだろう、と踏んでいたのかキッパリ言った私の返答に暫く目をぱちくりさせた後「あ…あぁ、そうだ。」と言って少し気まずそうに視線を落とした。かすがの優しさが私の頬を緩ませる。

「なっ…何を笑っているんだっ!?」

どうやら気に入らなかった様で頬を赤く染めて怒られた。その様子がなんだか可愛くてまた笑ってしまった。

「深零っ!!お前という奴はっ!!人が心配してやっているというのにっ!!」
「ふふふっ、ごめんね?つい、可愛くて。」
「全く…話の腰が折れた…」

横目で軽く睨んでくる彼女にもう一回謝ってやれば気が済んだようで話せるか?と聞いてきた。

「何をどこから話せばいいか分からないんだけど…」
「お前のペースでいいから、言えることを全部話してくれればいい。」

あぁ、午後一番の授業は上杉先生の授業なのに私の為にサボってくれるんだ、そう思ったら心が暖かくなった。
ゆっくりと話し始めたある日の午後。
遠くでチャイムが鳴った。






(暖かい)


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