「……ん、」

目を覚まし、目に映ったのは白い天井。
見慣れた物が見えるためここが病院ではなく学校の保健室だという事が分かる。

なんだか左手が暖かい。
ゆっくりと視線をそちらへ向けると規則正しく寝息をたてている橙色。
否、橙色の頭をした男。

(何故ここにこいつが…しかも手!!何で握ってるのよっ…!)

なんとか彼の右手から逃げようと試行錯誤。
しかし思ったよりもしっかりと握られている為か手から逃げることが出来ない。

(新手のイジメね…!そうなのね…!)

「…んぁ?深零ちゃん?…深零ちゃん!!大丈夫なのっ!?いきなり倒れるから俺様心配したんだよっ!?気分は!?どこか痛い所とか無いっ!?」
「だ……大丈、夫…」

(握られている手が痛い、なんて言えない。)

彼の行動に若干苦笑いを浮かべて返す。

「こんな時にあの変態教師は居ないし…」

変態教師、というのは明智先生の事のようだ。
確かに先生は変態だと思うけどここまで変態と言い切られてしまうと少し可哀想に思えた。

(同情なんてしないけどね。)

「……本当に大丈夫、なの?」

黙っていた深零の様子を具合が悪いと感じたのか佐助が再度聞いてきた。

その時顔を覗き込まれた近さに驚き固まってしまう。

「…深零ちゃん?」

手を伸ばされた所で意識が戻ってきた。
そして佐助を押しのける。

「だっ…大丈夫っ!!」

その反応に口角を意地悪く上げる佐助。
なんだかとても嫌な予感がする。

「どうしたの?」
「なんでも、ない。」
「そっか。」

未だにニヤニヤしている。この笑い方は人をからかっているときの笑い方だ。

「さ、行こ。」

突然差し出された手。
何の事か分からず首を傾げる。

「なに?」
「なに?じゃなくて。手。帰ろう?」

あぁ、そういう事か。

「…って何で私が手を繋がないといけない、のよ。」
「ん〜?俺様が繋ぎたいから。じゃ、駄目、かな?」

そう言っていつも教室で作る笑顔とは違う、―――純粋な笑顔を向けてきた。
何か言おうと口を開いた刹那、

「あっ、佐助くんっ!!一緒に帰ろうって言ったじゃんっ!!」

目が大きくて茶髪の可愛らしい子が保健室に入ってきた。

「は?ちょ、何勝手に…」
「ほーらっ!!いこっ!!」

女の子は佐助の腕を引っ張り行ってしまった。

私はそれを見ているだけ。

言いかけた事なんて、忘れた。繋がれていた手の温もりも、忘れてしまった。
反転して反転した世界は今までと何も変わらない世界だった。
私は、これで、いい。
刹那に感じた想いなんて、
忘れてしまった。






(反転)


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