初恋は実らないって、昔誰かが言っていた。

根拠も何もないその言葉を皆が信じ、皆が嘘だ、と言った。

だけど、今その言葉を聞いたらあぁ、やっぱりそうだったんだ。と思える。

やっぱり初恋は実らないのだと―――。

「そうだよね、――君。」

風が吹く中、ボソリと呟くその言葉は誰の耳にも届かず消えた。

「かすが、」
「ん?どうした?深零」
「今日、話聞いてくれてありがとね。」

これ以上の心配をかけないようにできるだけ自然な笑顔を作る。

その笑顔に安心したのか、かすがは小さくああ。と呟いた。

「…帰ろっか。」
「そうだな。じゃあ、私は鞄を取ってくるから深零は先に玄関で待っててくれ。」
「え、いいの?」

歩き始めたかすがが此方を見て微笑む。これは肯定だ。

「ありがと。」

本日何度目になるか分からないお礼を口にした。

ジュースでも買ってあげようかな…

確かポケットに小銭が入ってた筈だ。小銭の枚数を確認して自販機へと急いだ。

この学園の造りは複雑で入学当初は迷ってばかりだった事を思い出した。あの頃はクラスメイトにイケメンがいっぱいいる、ってにやけてたっけな…

そのうちの一人を好きになるなんて全然思ってなかったのに。

なんで、好きになっちゃったんだろう。なんで―――

悶々としながら歩みを進めると自販機の前に数人の生徒が居る事に気付いた。此方としては早めに其処を退いて欲しいがそんな事を言える柄では無いので自販機の前が空くのを待った。

暫くすると数人のうちの一人が此方に気付いた。

「Hey,どうしたんだ?honey?」

視力が低いのと出来るだけ見ないようにしていた為、其処に居たのが自分のクラスメイトだという事に全く気付かなかった。

気付いていたなら…そう。もっと早く避難、元い玄関へ足を進めていただろう。

しかし、今更そんな事を考えても後の祭りである。

「あ、いや…ちょっと飲み物を買いに…」

間違った事は言ってないのに何故だか言い訳がましくなってしまう。

多分それは伊達政宗のこの普段から纏っている威圧感の所為だろう。

「drink?今は授業中じゃねぇのか?」
「あ。」

完全に忘れていたが今は授業中。

普段真面目な深零がこの時間に飲み物を買いに来る筈がない。

「…や。えーと……サボり…かな?」

半疑問系にしてしまうのは自分の弱さ。

「いけない子だなぁ?honey?」

そう言ってニヤリと上がる口角。細められる隻眼。

「あ…」

こいつ…!楽しんでやがる…!

「あんまり苛めたら可哀相だよ、竜の旦那。」

視界が伊達政宗で埋まるんじゃないかって位近寄られた時、奴の背後から声が聞こえた。

聞き間違える筈のないあの人の声が…

「ククッ…sorry.つい、可愛くてな?」
「だからって変態に近寄られたら深零ちゃん、可哀相でしょ?」
「…Hey,猿。それはどういう…」
「大丈夫だった?深零ちゃん?」
「へ?あ、うん。」

震えそうになる声を押し殺し、平常心を装い、嘘の笑顔を貼り付けて接するのは私の想い人。

「そっか。良かった。」

へにゃん、と効果音が付きそうに笑う彼。その一つ一つの動作に胸が軋む。

やばい、限界、かも。

必死に溢れそうになる涙を堪える。

「っ、じゃあ、ね…」

これ以上は無理だ。

勢い良く踵を返し玄関へと走り出した。

筈だった。

私の手は何者かに掴まれて走り出す事が出来なかった。

「ちょっと、話したい事あるんだけど…大丈夫?」

真剣な眼差し、掴まれた手、






(軋む心臓)


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