頭が朦朧とする中で誰かが私を呼んだことにより急に意識が浮上した。


「!深零!良かった!気がついたか!誰か、医者を呼んでまいれ!」
「ゆ…きむら、さま…?」


目を開けると我が主である幸村さまがこちらを覗き込む様にして見ていた。私が居るのは、布団の中。外ではばたばたと足音が響き、何人もの人が廊下を行き交っている様だった。


「深零、良かった。本当に、良かった。もう目を覚まさぬのかと思ったぞ。みんな、おぬしの事を心配していたんだ。」
「みんなが、心配…?」
「…その様子だと、覚えておらぬのだな。」
「えと…幸村さま?」


何時までも主の前で醜態を晒しているわけにもいかず、身体をどうにか起き上がらせようとするけれども、身体に全く力が入らず、それ所か脇腹から背中にかけてまるで焼き鏝が押し当てられているかの様に酷く痛んだ。


「いっ…!」


痛みに悶絶しながらも起き上がろうとしていたら幸村さまに手で制された。


「かなり深く斬られているのだ。無理に動いたら傷口が開いてしまう、寝たままでかまわぬ。」
「いえ、しかし…」
「かまわぬ、と言っておろう。」
「すみません…」

主に気を遣わせてしまうなんて本当に忍として情けない。こんな所を佐助さまに見られてしまったら……佐助さま?私が最後に見た佐助さまは敵に斬り掛けられていて…。


「幸村さま!佐助さまは大丈夫なのでしょうか!?」
「あ…ああ。大丈夫だが…。」


どことなく歯切れの悪い幸村さまに少し不信感を持ちつつも佐助さまの事が気になった。


「今、話をする事はできますか。」
「っ、今は、話さない方が…」
「大丈夫だよ。旦那。ちょっと席を外してもらってもいいよね?」
「さ、佐助!?」


音もなく幸村さまの背後に佐助さまが現れた。


「悪いね、旦那。ちょっと席を外してもらってもいいかな?」
「あ…ああ。構わないが…深零はまだ傷が癒えていない。その事を努々忘れるでないぞ。」
「分かってるって。」


そう言って幸村さまは席を外してしまった。残された私達の間には異様な空気が漂っており、妙に息苦しく感じた。


「……あの、佐助さま…」


ぱしん、と乾いた音がそう広くもない部屋に響いた。頬を叩かれた、と理解するにはさほど時間はかからなかった。


「なんで俺様を庇ったの?」


そう言って私を見つめる佐助さまの瞳には明らかな嫌悪の色が滲んでいた。


「迷惑、だったんだよね。」


迷惑、と言う言葉をここまで重く感じた事があっただろうか。どう応えていいのか分からず、佐助さま、と呼びかけ手を伸ばした。


「吐き気がする。」


そう言って私の伸ばした手に触れもせず、現れた時と同じ様に姿を消した。


行き場を失った手はまだ宙を彷徨っていた。





( 拒まれると知りながらその手を求めるのは愚かなことですか )




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