小さい頃から俺様の後ろを歩いて回っていた姫様。舌っ足らずに「さすけ」なんて呼ばれたら頬の筋肉が緩みに緩みまくって締まりのない顔だ、なんて言われても文句が言えない。 そんな姫様が輿入れするそうだ。 別に恋愛感情があった訳では無いからすんなりと受け入れられると思った。だけど、相手の城を偵察して回ったり城下を見て回ったり色々してしまった。 それだけ姫様は俺様にとって大事な存在って事だ。忍に感情なんて必要ないのにね。 「佐助は、私が嫁いでも寂しくないの?」 「そりゃあ寂しいですよ。だって小さい頃からずっと俺様の後ろをついて回っていた姫様が嫁いじゃうんだもの。」 「そうじゃなくて、」 「あぁ、そうだ。俺様、姫様のお祝いの為に簪を買ってきたんですよ。薄給なのに頑張ったでしょ。」 「……はぁ。…ありがとう。」 姫様が何か言い掛けていたのは分かっている。話を遮ったのも分かっている。 だけど、そうしないと大事な事を聞いてしまう気がして。 「俺様は、姫様が幸せであれば良いですから。」 俺様の幸せは姫様の幸せです、なんて言うと大きく目を見開いた後、直ぐに顔を綻ばせた。 「馬鹿ね。あなたも幸せにならないといけないのよ。」 そう言って立ち去るその背中を見送った時、ああ、やっぱり少しの恋愛感情はあったのかもしれないと思ってしまった。 愛他主義 あいたしゅぎ(他人の幸福・利益を第一の目的として行動する考え方) |