それは、突然やってきた。
「名前、ちゃん?」
「?」
「名前ちゃんだよね?」
「え、は、はい…」
ある日外で洗濯物を干していたら、木の影から現れた男の人。結構年配で穏やかな顔をしているその人は、確かに私の名前を呼んだ。
警戒して一歩下がればその人は「いきなりごめんね」と柔らかな笑みを浮かべる。
「あなた、誰ですか?」
「ああ、私は、」
「何してんだてめぇ」
ぐいっと後ろから腕を引かれて目の前に大きな背中が3つ並んだ、3人とも片手を刀にかけていて空気がピリピリとしていて警戒してる。
何か言いかけた口を閉じてその人はその3人を見て困った顔をしていた、
「こいつに何の用だ」
「どこの者だ、気安くこいつに近寄るな」
「ま、待って3人とも、この人私の事知ってるみたいで……」
「怪しさ満載だろうがバカかお前」
「私は名前ちゃんの父の弟です」
「……え?」
お父さんの、弟?
馴染みのない繋がりに首を傾げる。
私は小さい頃から寺子屋を抜け出して松下村塾に頻繁に行っていたしこの戦争に着いていく時だって家族からは猛反対されてほぼ勘当された身だ。
それなのに、今さら血縁者が現れるなんて、おかしい。3人もそう思ったのか警戒を解かない。
「あ?聞いたことねーけどそんな話」
「無理もない、彼女に会ったのは赤ん坊の頃だからね」
「その話が本当だとして、彼女に何の用だ」
「私と一緒に帰ろう、名前ちゃん」
「…………え?」
帰ろうって、どこに?
驚く私をその人は穏やかな目で見つめる。
「兄も心配している、止めるべきだったって…女の子がこんな所にいてはいけない」
「……おい、勝手な事抜かすな」
「待て高杉」
「だけどそうだろヅラ、散々こいつの事放置して無視しておいて今さら帰れなんてどの口が言うんだよ」
「落ち着け銀時」
「私、は、帰りません…」
「名前ちゃん」
「だって、今さらなんで」
「娘が死ぬかもしれないのに放っておく親がどこにいる」
厳しめに言われた言葉に肩が跳ねた。
悪いことしているのを見つかった子供みたいに、目が合わせられない。心が子供の頃に戻っていく、あの感覚に食われていく。優しい言葉が怖いと感じた。
「今からでも遅くない、だからまたやり直せばいいじゃないか」
「っ……」
「明日もまた来るから、一緒に来る気になったらおいで」
それだけ言ってその人は行ってしまった。
私の心を、ぐちゃぐちゃに踏み荒らして。
今さら、今さらなのに。
ぐらぐらと揺れ動く心にただ戸惑わされた。
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