お礼文 | ナノ


光が反射してキラキラと輝く真っ黒な瞳は、喉から手が出るほど求めていたものだった。


*


宇宙は謎ばかりである。謎に包まれているからこそ、こんな大きな地球ができたのかもしれない。

私は宇宙飛行士ではないから地球を出たことなんてないし、この先もずっと出なくていいと思っている。だって地球から見える星はキラキラしててきれいだ。きっと宇宙へ行けばもっと綺麗なものを見れるのかもしれないが、私はこのきれいな星空を見れるだけで満足である。
そもそも“地球を出る”なんて大それた目標を持つ前に私の行動範囲は狭い。日本というこの島国から出たことがないし、日本でも行ったことがない県は何十とある。それでも今が幸せだから、やっぱり私はこれ以上わがままを言わない。

謎が多い宇宙の、謎が多いこの地球では、色々な宗教が存在する。神を崇めたり、輪廻転生を信じたり、内容は様々だが、私はあまり信じていなかった。しかし私はある日輪廻転生というものがあるんだと実感した。……神様がいるのかは、わからないけど。明確な自我を持って物心がついた頃に、パニックになることはなく自然な流れで私は私でないことを思い出し、そして気付いた。ここは私のいた世界ではない。

今の私はネオン=ノストラードという名前だ。昔の、前世の記憶ではこんなカタカナ発音の名前じゃなかったのをはっきりと覚えている。それ以外の前世の記憶だって鮮明だった。それでも一つだけ、覚えていないことがある。私がどうして死んだかということだ。転生したということはつまり私は死んだということだろう。でも、私が最後に覚えているのは、あのキラキラときれいな星空をいつものように見ていた記憶だ。これのどこに死ぬ要素なんてあるのか、わかる人がいるなら教えてほしい。


「ねぇ、お父さん、私あれが欲しい」


生まれ落ちたこの街は高いビルに囲まれているし空気は濁っていて星はほとんど見えない。あんなにも好きだった星が今では遠くに感じるせいで、たまに見える星に手を伸ばしては今の父親に欲しい欲しいと言葉を溢した。その言葉を聞くたびに父は「ネオンは本当に星が好きなんだな」と笑うだけ。

この世界には宇宙飛行士という職業は存在しない。もしも存在していたら、今の私はすぐに飛びついていただろう。前世では『地球を出たいだなんてわがままは言わない』と言っていたのにも関わらず、だ。


*


星を手に入れることができないのなら別のもので代わりに満たそう。そう思ったのは星を諦めて十代になったすぐのことで、あっちに行きフラフラ、こっちに行きフラフラ、父がつけてくれた付き添いが疲れ果てても私は気にせず買い物を続けるような日々を過ごすようになった。そんなある日、いつも同じように街を歩いてショーウィンドウの中に綺麗に並べられたマネキンの服を見ていると数歩後ろに、例えるなら慎ましい日本人妻のような――実際のところ慎ましいとは言えない黒ずくめの屈強な男二人だ――付き添いから声が掛かる。何かと訊こうとしたが訊く前に私は誰かとぶつかってしまった。


「わ、ごめんなさい。前を見てなかったの」
「オレのほうこそごめんね。こっちも前を見てなかったや」


ぶつかった彼は「どっちも見てなかったからおあいこってことで」と笑ったが、私は彼の顔を見た瞬間時が止まったかのように思った。いや、本当に私だけは時が止まっていた。彼の大きな瞳に捕らえられてしまったのだ。どこまでも真っ黒なその瞳は昔見た夜空を連想させ、反射してキラキラとするそのいくつもの光は恋しくてたまらなかった星を連想させる。私はずっと、この世界に生まれ落ちてからずっと、ずっと、これを喉から手が出るほど求めていた。どこへ行っても見つからずどんなに懇願しても手に入らずに悲しんでいたものがこんなにも近く、文字通り手の届く位置にあったというのは私を喜ばせるには十分だった。今までの悲しみなんてあっという間に吹き飛んで、不思議な高揚感に満たされる。しかし私が欲しかったものを持っている彼。嬉しいと、羨ましいと、そんな感情を抱くと同時に憎らしく感じた。どうして私は持っていないのに、彼は持っているの?ねえ、どうして?そんなことを考えて、我に返った頃には目の前から彼は消えていた。私はどれだけの時を止めてしまっていたのか。彼がいなくなったことに気付いた瞬間、サァと血の気が引く。


「彼を見つけないと」

小さな小さな、私だけの
私、あれが欲しいの



補足:ぶつかった相手はクロロ

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