お礼文 | ナノ


眠いなと布団に横になっていると、鼻につくような血の匂いが部屋の中に入ってきた。がばり、急いで体を起こす。


「フェイ!おかえり!」


そう言って抱き着こうとすれば片手で難なく止められてしまった。ただいまと返事をしてくれないということは機嫌でも悪いんだろうか。抱き着くことも拒まれ少しわびしい気持ちになっているとフェイが先程私を止めた手で私の頭を撫でた。


「今ワタシ返り血いぱいね。シャワー浴びるからちょと待て」


フェイは少し目を細めて笑ったが声がどうも機嫌が悪そうだった。私は、はぁい、と間延びした返事をして浴室に行くフェイを見送る。フェイの血じゃないだろうとは思ったがどうしてあんなに返り血がついているのか。いつもならあんなに血がつくことはないのに。

そうだ、血が固まる前にさっさとフェイの服を洗っておこう。すでに少し固まってしまってるかもしれないが、思い立ったが吉日。そう思い急いで脱衣所にあるフェイの服を手に取る。がらり、ほかほかと体から湯気を出すフェイタンが出てきた。…上がるの早くない?


「……ナマエもいしょに入りたかたか?」
「いや、私もうお風呂入ったし」


黒い髪からぽたぽたと落ちる水滴がフェイの肌に触れるのが艶めかしく感じる。小柄ではあるが実はしっかりとしている体がそれをさらに引き立てていた。フェイは私が持っている服に目をやる。


「ソレどうする」
「返り血いっぱいだし固まっちゃう前に洗おうかなって」


そういうとフェイの眉間にあからさまに皺が寄った。え、何か私機嫌を悪くさせるようなことしました?その疑問は私の手にぬるりとついてしまっている血のおかげですぐに解決した。ヤダー洋服に血がついてしまってるじゃないですかー。あーあ、といった感じで自分の服と手を見ていると、服を着たままだというのに浴室へ引っ張られてしまった。


「ちょっ、フェイ!私服着たまま!」


お湯の張っていない浴槽へ入れられたかと思えば、フェイは蛇口を思い切り捻った。バシャバシャと水と水がぶつかり合う音を立てながらあっという間にお湯が溜まっていく。お湯に浸ってしまった下半身が服と密着して気持ち悪い。先程からフェイは黙り通していてただ、じっ、と浴槽にお湯が溜まっていくのを見ていた。胸元までお湯が達すると服についていた血がじわりじわりと落ちていき浴槽に薄い赤のマーブル模様が現れる。最初は気持ち悪いと感じていた服の密着もここまでくるともうどうでもよく感じた。


「ナマエ」
「ん?」
「血、落ちたか?」


その質問に対し私は言葉ではなくこくこくと頷く動作だけをした。それに満足したように目を細めたフェイは私が着ていた服をぶっきらぼうに脱がせ私を抱きかかえる。もしかして他人の血が私につくが嫌だったんだろうか。どうしてフェイが機嫌悪くなったか本当の理由はわからないし聞くのも面倒臭いので自分の都合のいいように理由を考えた。

フェイは私を抱きかかえたままベッドへと足を向ける。先程のぶっきらぼうな脱がせ方とは打って変わり、優しくベッドへ下ろし額に軽く唇を落とした。そのまま瞼、頬、唇、耳、首元とまるで確認するかのように唇を落としていく。


「フェイ、電気」
「イヤね」
「……じゃあやだ」


あ、今少しむっとした。
わかりやすいフェイにくすりと笑えば、パチ、と電気を消してくれた後に何が可笑しいのかと訊いてきた。たぶんここで正直に、可愛かったから、と伝えればフェイはきっと喜ばないだろう。なんでもないと誤魔化しながら今度は私からフェイの唇に私の唇を重ねると、フェイはずるいねと一言だけ呟き、吸い込まれるような真っ黒い髪が揺れた。

今夜は深海魚
闇に呑まれた密室で私たちは溺れたかのように息を吐いた。

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