お礼文 | ナノ


少し薄暗く、廃墟のようで、だけど綺麗に整頓されてある一室のベッドに私は横たわっていた。ここから見える扉は二つ。一つは閉まっているが廊下に続いているであろう扉。もう一つは半分ほど開いているせいかそこから微かに本のにおいがする。ここまで本のにおいがするとなると本屋でも開けるくらい多く本が置いてあるんじゃないんだろうか。

ここがどこだとか、なんで私がこんなとこにいるんだとか、そんなことはどうでもいい。むしろその理由はよくわかってる。


「なんだ、起きたのか」


数冊の本を手に持って半開きの扉から出てきたクロロは私がここにいることになんの違和感もないかのように話し掛けてきた。そして何事もなかったかのようにベッドの脇の椅子に座り持ってきた本を読み始める。


「なんだ、起きたのか。じゃなくてさ、なんで私がクロロのベッドで寝てんの?私昨日ちゃんと自分のベッドに入って寝たはずなんですけど」
「そんなの…ナマエが寝てたから連れ去っただけの話だ」
「なに涼しそうな顔して連れ去ったとか言っちゃってんの?クロロばかなの?死ぬの?」
「俺は馬鹿でもなければ死にもしないな。欲しいものは盗んでこそが盗賊だろう」


なんでこいつはさも当然かのような顔でふざけたことを抜かしやがってんだ。盗んでこそが盗賊だろうって堂々と自分のことを盗賊だと教える頭なんて私は認めない。断じて認めない。いや、クロロ以外の盗賊なら認めてやらんこともない。

再び本を読み始めたクロロはもう完全に本の世界へ飛び込んでしまっていた。とりあえずここはどこのアジトだろうか。自分の家から遠いところじゃなければいいが。私は本の虫になってるクロロを放置したまま部屋を出た。


「あら、ナマエ起きたの?おはよう」
「おはよう。ていうか何で至って普通の光景かのように挨拶してくるのパク」
「ふふふ、だってそうでしょう?至って普通の光景よ」


そう言って可愛らしく笑うパクにうまく言い返せない。そう、ある意味これが“至って普通の光景”だから。週に一度か二度ほど必ずクロロは無理矢理に、私に許可なくアジトへ攫ってくる。連れてくるなんて生温いものではなく攫ってくるのだ。さすがに国境を越えていたときは怒るのを通り越して呆れてしまった。


「ところでパク、ここどこ?」
「もう帰るの?もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「パクとかマチとかシズクとか女組だけならお茶でもしてゆっくりしていきたいけどね」
「そうね、また今度しましょう。ナマエの家はこの隣町よ」


ありがとう、と笑顔でお礼を言うとパクも笑顔で返してくれた。ああ、ほんと美人だな。隣町と聞いてこのアジトが我が家と近かったことにホッと安堵の胸を撫で下ろした。さぁて、朝のジョギングということでひとっ走りするかな。ぐっぐっ、と軽く準備運動をして蜘蛛のアジトを飛び出す。少し肌寒いものの朝の空気が気持ちよい。と、思ったのも束の間。ガシリと腕を掴まれた。


「どこ行くんだ?」
「……家に帰るんだよ」
「この俺を置いてか」


腕を掴んできたのは先程まで本に集中していたはずであるクロロ。どうして貴様がここにいる。

エゴイズムの塊め!

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