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どういうことだろう。ぱちぱちと何回か目を瞬かせてみたり、擦ってみたり、色々なことを数分やってみたが目の前の景色が変わることはなかった。いつから私は瞬間移動できるようになったのか。そんなことを思いながら改めて辺りを見回してみるとそこはまるでHUNTER×HUNTERに出てくる流星街のようなところだった。ここが流星街だなんて夢小説じゃあるまいし、そんなこと、ありえない。ははは、と今置かれているこの状況が把握できないのもあって思わず笑いがこぼれそうになった。


「……おい」


後ろから聞えてきた声にびくりと肩を揺らし振り向いてみれば、瞳が大きく、綺麗な黒髪の少年が立っていた。その綺麗な顔立ちはここに不釣り合いのようにも見えたが、くたびれた服と健康的とは言えない血色、袖口から見える少し細い手首にもしかするとここに住んでいる子なのかという考えが脳裏を過った。


「お前、どこから来たんだ?」
「…どこから?いや、そもそも私どうして自分がここにいるのかわからないんですよ」


少年は明らかに私より年下のはずなのに年上を敬う姿勢は一切見えずぶっきら棒な話し方だった。どこからと訊かれれば日本だが、そんなことよりも私がここにいるわけのほうが気になって仕方がない。ここはどこなのか。日本のどの辺りなのか。ここは私の住んでいる周辺にはなかったから完全に知らない場所だ。だから少年が私を見つけてくれたのはある意味ラッキーだったかもしれない。


「……状況を把握できてないのか?」
「…はい?」


状況を把握?いや、気付いたらここにいましたって状況なのに把握だなんて、んなことできるわけがないだろ。とは口には出さずに困ったように笑って見せれば少年から溜息がこぼれた。年下なら年下らしく少しは謙虚にいこうよ。


「……お前はここに捨てられたんだ」


わぁお…何言っちゃってんのこの子。捨てられたんだってそんな軽々……とかそんなんじゃなくて、日本にそんな人を捨てていい場所なんてないに決まってる。頭大丈夫?というかまさか厨二病真っ最中ですか?


「ごめん。意味わかんないです」
「……要するにお前は今日から流星街の住民になるってことだ」


二度目の溜息をこぼした少年は、これで理解できたか?と言いたげに大きな黒い瞳を私に向けた。私はその言葉に目を白黒させ、聞き間違いかと思い訊き返せば同じ単語が少年の口から出る。ここは“流星街”だと。どうやら私はえらくリアルな夢を見てるのかもしれない。いつ居眠りなんてしちゃったのか思い出せないが、これは夢に決まってる。夢の中で夢だと気づくのも可笑しい話かもしれないが夢でなければいけない気がして少年の言葉を信じられないでいた。


「は、はは…流星街って…何言ってるんですか?」
「……言葉通りの意味だ。その反応からすれば流星街のことは知ってるんだろ?」
「………だって流星街は―――」


漫画の中だけの街だったはずでは…?その言葉を今ここで言ってはいけない気がして、ぐっと飲み込んだ。この少年がこんな真顔でこんな話をふざけて言うとも考えられず、先程まで信じたくないと思っていた気持ちが、じわりじわりと信じなくてはいけないのかもしれないという気持ちに変わっていく。その気持ちに平行するかのように瞳に涙が溜まっていき、気が付いたら視界がぼやけていた。子どもの前だというのに大の大人が泣くだなんて情けない。そう思いながらも体が正直なせいで涙は止まらなかった。


「……泣いても意味ない、と言っても無理だろうな。見たところまだ十代前半くらいか?行く場所がないなら俺と一緒に来い。ここで生き抜く術を教えてやる」


ぴたり、今まで止まらなかった涙があまりの驚きで止まった。…十代前半?はい?少年の言葉に目をぱちくりと開閉していると、なんだ?違うのか?と不思議そうな顔で言われた。この歳になって十代前半に間違われたのは初めてだぞ、少年よ。
なんとも言えない気持ちになりながらも、少年のおかしな発現のおかげで冷静さを取り戻した私は、ふと胸の違和感に気付く。ブラジャーが…すごく…スカスカです…。バッと胸に手を当ててみれば元々あった胸が、ない。サアっと血の気が引いていく。


「……君の身長ってどれくらいあります?」
「変な質問だな。…155くらいだと思うが」


オーノー!それより低いってどういうことなの。明らかに縮んじゃってるよ私。気づけば若返ってました!わあいヤッタネ!………どうしよう全然嬉しくない。

ブラックシープの少年
名前を尋ねれば、クロロ=ルシルフルだと返ってきた。……はは、ははは、今日本だったらなんつーDQNネームだと笑えたのに。これ、なんていう死亡フラグですか。

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テーマ「人外ファンタジー」
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