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「ナマエより先に死ぬなんて天地がひくり返てもありえないね」


フェイタンは嘲笑した。そんなの誰にもわからないことだというのに、私が例え話として言った話に対してこの先そんなことは絶対ないと笑うのだ。しかし強い彼のことだから私なんかよりずっとずっと長生きするような気もして、やはり私のほうが先にぽっくり逝ってしまうのかな、と納得しそうにもなった。


「だけどナマエはワタシより先に死ぬのダメね」
「…そんなの無茶苦茶だよフェイタン」
「もし死んだらワタシがお前を殺すよ」
「もうすでに死んでるのに?」
「お前の魂があの世に逝けないようにすればいいね」


それこそ無茶苦茶だよ、と少し苦笑いをこぼした。そもそもあの世に逝けないようにしたからといって私を殺すことにはならないだろうに。

フェイタンが私より先に死ぬことは絶対ない。彼がそう言っているから。だけど私がフェイタンより先に死ぬことは許されない。これもまた、彼がそう言っているから。そうなると一緒に心中しろということになるのか?そんなの意図してやらなければできるわけがない。まあ、こんなことを考えたところできっと彼は自らを殺そうだなんて考えたりしないんだろうけど。


「ナマエの魂があの世に逝けなければ来世も何もないよ。だからナマエの来世をワタシが殺したも同然」
「わあ、やり方がえぐいなぁ…」
「せめてもの同情でワタシ死ぬときにいしょに魂解放してやる」


まあ、ワタシは長生きするから当分待つことになるね。ニマニマと笑うフェイタンに私は死んだ後も捕まったままなのか。呆れ混じりの溜息を小さく吐きながら、それもいいかもしれないと思った私も大概だな。だけどそうすれば来世でもフェイタンと同じ世界を見れるのかもしれない。私はそれが嬉しかった。


*


天地がひっくり返ってもありえないと言った彼は冷たかった。いつも低体温だから体が冷えているのは知ってたけど、今日はそこまで寒い日でもない。どうしてこんなに冷たいのかなんて、私にだってわかるはずなんだろうけど、やはり今日は私が思っている以上に寒いのかもしれないとそんなことを考えてしまう。

真っ赤なソレが真っ白になった肌によく映えていて、綺麗だった。ソレが彼のものだからそう感じてしまったのかもしれない。薄い唇も色を失くしていて、彼の存在までもが薄くなっていくような気がした。ああ、駄目、駄目だ。そう思うと体が勝手に動いていて、彼の体についていたまだ完全には固まっていない部分のソレをゆっくりと指につける。ぬるりとしたソレを彼の唇に這わせれば、血色のいい唇へと変身した。


「……今から死ねば、追い付けるのかなあ」

逆さま世界
君の言葉を信じてたのに、こんなのってないや。

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