10000 | ナノ


頼まれた身として一応場所は伝えられていたが、伝えられなくとも元々知っていた。だから時間を潰しながら頃合いを見てお店に入ったつもりだった。それだというのに渡された番号札に書いてある数字は1。おいおい、嘘だろうと誰もいない静かな地下にぽつんと立ちながら、今更になってどうして引き受けてしまったんだろうと悔やんだ。もう手遅れなのは知っているけど。


一ヶ月前、突然一本の電話が届いた。登録されていない番号だったし出るのはやめておこうかとも考えたが何分経っても鳴り止まない受信音に嫌気が差して結局通話ボタンを押した。誰かと問えば、ハンター協会事務のビーンズだと返ってきた。ビーンズっていうとあれだよね、緑の豆の人。私はどこで私の番号を聞いたのかと言いたかったが、それよりも先にビーンズが話し始めた。


『突然すみません。来月に行うハンター試験の試験官補佐をやっていただけないでしょうか?』


試験官、補佐?その言葉で思わず頭上にクエスチョンマークが出てきそうな勢いである。試験官はわかるが、試験官補佐は聞いたことがない。そもそも試験官っていうのは試験内容を考え受験生を監視するとかそういうことをするだけじゃないんだろうか。具体的には詳しく知らないからなんとも言えないが、試験官補佐なんて必要ないだろ。


「……試験官補佐ってなにするんですか?」
『試験官補佐といっても、試験官の手伝いをするわけではなくて今回特例で設けた役割なんです。』
「……はあ」
『前回のハンター試験で試験官を半殺しにした受験者がいたんです。その受験者はもちろん不合格になったんですが、来月のハンター試験をどうやら受けるようでして…』
「………その受験者を監視しておけ、ということですかね」


きっとそう言いたいんだろうと私が先に答えれば、少し申し訳なさそうなビーンズの声が返ってきた。試験官を半殺しだなんて何やってんだその人。正直、やりたくない気持ちでいっぱいすぎる。試験官を半殺しにするくらいだから念能力者の可能性だってあるし、もしかすると私がその受験者に半殺しにされるかもしれない。だけど私なんかに頼んでくるほど人手不足だってこともある。申し訳なさそうにお願いしてきたビーンズの頼みを無下に断るのもよくない。どうしたものかと悩んでるのが伝わったのか、ビーンズが黙り込んだ私に話しかけた。


『無理にとは言いませんが、できればギメイさんがいいと会長もおっしゃってまして…。それにその受験者と接触しなければいけないというわけではなくてただ変な動きがないかを確認しつつ報告してもらえればな、と』


………会長ってネテロさんだよね?どうしてそんな人が私なんかをそんなに推してくるんだろうか。接点なんてないし、ハンター試験で会ったっきりのような気もする。いくらなんでもありだからといってそんな数年前の数時間同じ場所にいただけの人間を覚えているだなんて無理だろう。しかし会長からもお願いされたとなれば断りにくい。


「……その受験者の特徴などはしっかり教えてくださいね」
『やっていただけますか…!』
「はい。特に今のところは仕事も入ってないですからいいですよ」
『だそうです、会長!』


嬉しそうな声で話すビーンズの言葉にぱちぱちと目蓋が開閉する。え、会長さんいらっしゃるんですかそこに。そんなことを思っていると電話越しに聞こえる笑い声。


『ほっほっほっ!ジンが紹介したやつだからもっと頑固なのかと思っておったんじゃが案外あっさりしたやつじゃったのォ。てことで287期のハンター試験よろしく』


……はい?ジンさん何やっちゃってくれてるんですか、接点あったじゃねーか、とかそんなことを考える前に287期という言葉に思考が止まった。もうそんな時期なのか。というか嘘だろ?286期で試験官半殺しにしたやつって言えばただ一人、あいつしかいない。


「やっぱりお断りさせていた――」
『だめーもう決まったんじゃもーん』


てめぇは何歳だと言いたくなるような返事がネテロさんから返ってきた。いや、287期って原作組の年じゃないですか…!しかも監視する対象がヒソカだなんて…!

どうやら私は乙種一級フラグ建築士のようです。

監視しましょ、そうしましょ

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