10000 | ナノ


ぱちり、目が覚めたのはまだ少し薄暗い早朝六時。前いた世界では早朝出勤があったりして早起きなんてよくあったことだが、今は自然とこの時間頃に目が覚める。それはこの世界に来てから手元にある携帯は充電できる場所もなく一年半くらいは電池が無くなったままだし、それ以外に暇を持て余す道具があるわけでもないため夜は早く寝るからだ。

私はまだ少しぼうっとした頭を覚ますために顔を洗って歯磨きをしようと水に手を伸ばした。


「……うはぁ」


指先に触れただけでわかるこの冷たさ。この時期の水は冷たすぎて触るだけでも勇気がいる。かといってお湯が出てくるわけでもないのでわがままを言うわけにはいかないんだけど。一度深呼吸をして水に手を伸ばせばやはり冷たい。これは完全に目が覚めるだろうなあ。期待を裏切らずに冷たい水は私の顔にぶつかった。

完全に目も頭も覚めて朝の仕事、といってもただの鉄くず集めをするために外に出かける。時間が時間なせいで起きている人は少なく、ぽつりぽつりと人が目につくくらいだった。まだまだ未熟な円で何かお金になりそうなものがないかと探すところから私の一日が始まる。

集めた鉄くずを寄り合いまで持っていき換金したそれと、カルロさんが朝ごはんに食べてくれと渡してくれたパンを持ってラウさんのところまで戻った。戻ったとしてもラウさんはまだ起きてはないんだけど。


「ラウさーん、朝ですよー」


横になっているラウさんの肩を掴みながらグラグラと揺らせばラウさんの機嫌悪そうな唸り声が小さく聞こえ少し下にあった毛布で顔を隠された。これも日常の一つで、八時ごろになるとラウさんを起こすわけだが、いつも苦戦する。ラウさんの寝起きの悪さは本当に悪い。本人は意識あるのかないのかわからないが、いつもより目つき悪いし舌打ちされることだってあるし、最初はちょっと怖いと思ったこともあったが今では子どもを起こす親にでもなったかのように毛布を剥ぎ取る。そうすればやはり舌打ちが聞こえてくるのだ。


「……おい」
「毛布は返しませんよ」
「………」
「はーい、そんな睨んでもダメですー起きてくださーい」


ラウさんの睨みにも怖めず臆せず、私はにこにこと毛布をたたみカルロさんから受け取ったパンをラウさんに渡した。何を思ってるのか、受け取ったパンをじいっと見つめてるラウさんはまだ寝ぼけてるのかもしれない。それにしても今日はまだ寝起きはいいほうだ。顔を洗ってきたらどうですか?とか水いりますか?とか聞いてもただこくこくと頷いているラウさんは右の耳から左の耳状態だと思うが。

あと三十分もすれば意識もはっきりしてきていつものラウさんになってしまうんだろいけど、早朝しか見れないこのラウさんは少しレアな気がして、唯一の朝の楽しみだ。


***


たまに何故かナマエより早く目が覚めて、逆にナマエが寝過ごすことがある。いつもより長く寝れるかもしれないと思い気にせずに寝ようとするが、そういうときに限って何故か目が覚めてしまってたりする。最初の頃は仕方ない起こしてやるかと優しい俺はナマエの名前を呼びつついつも起こされるときと同じように肩を掴みながら揺らしていたが、こいつは人に文句言う前に自分の寝起きが悪いことをよく知っていたほうがいいと思った。


「おい、ナマエ起きろ」
「……んー」
「もう七時くらいになってんじゃねーか」


聞こえているのか、ただ唸っているだけなのか、んーんーと言いながらもぞもぞと毛布に潜り込みそうなところでナマエが使っていた毛布を剥ぎ取った。突然毛布がなくなったせいで寒くなったのか、むくりと起き上がると俺のほうを見るわけでもなく、ただ前を見てぼうっとしている。初めはどうかしたのかと少し心配したが、これがこいつの“寝起きの悪さ”だと気づいてからは心配のしの字もなくなった。ナマエは一言も話さずに立ち上がりコップに水を入れごくりと飲んだ。今日はこの後何をするんだろうかと観察していれば、俺がいることに気付いたのか、こちらに向かって来る。


「お、今日は“起きてる”のか」


そう言った俺の言葉など無視して無言で近づいてくるナマエを見てやはり“起きてない”のかと溜息をこぼした。ナマエの寝起きの悪さは眠りが深いときに起こしてもそのときの記憶が一切ないということ。そのせいで起きたときのこと覚えてるかと訊いても覚えてない、そもそも起きてないと文句を言われる。覚えてないなんて俺よりタチ悪いんじゃないか?それにしても俺のほうに向かってきてなにをするのか、そんなことを考えていると手に持っていた毛布をぐいぐいと引っ張られた。また寝るつもりか、こいつ。俺が毛布を手放さずに抵抗していると突然引っ張られていた力がなくなり、その代わりに俺の体に少し重みが掛かった。


「……お前なあ」


毛布が取れないのならそこで寝ようということなのか?胡坐をかいていた俺の間にすっぽりと収まるように座り俺の手に持っていた毛布を自身に掛けているナマエに今度は呆れ混じりに溜息がこぼれた。


「今日は起きてないなんて言わせねぇからな」

ゆめゆめ忘れてくれるなよ
どっちもどっち。

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