10000 | ナノ


オレは人通りの少ないひっそりとした喫茶店の店員で、趣味は人間観察と言ったところだ。ここは見つけにくい場所に建てられているが一度来た客は必ずよかったと口にして気付けばまた足を運ぶようになるため、常連客が多い。勿論のこと、いいのは店だけではない。この店の店長も優しい人で、店長の人柄に惚れる人もいるくらいだ。

そんな常連客の中で月に一度、必ずやってくる二人一組の客がいる。彼等が気に入ってここに来てくれているのはわかるが、別々で来たり互いの友人を連れてくるなんてことはなく、必ず二人でしか来ないのだ。他の客は、ここの店が良いからと知り合いを連れてくるというのに。そして今日はその月に一度の日である。


「カイト、久しぶり」
「ああ、ナマエもな」


彼等はいつだってこの会話から始まる。だからこの店で会う以外は会うことがないんだろう。それでも「この間言ってた」「一昨日の件で」とかそんな言葉が聞こえてくるのだから連絡を取っていないわけではなさそうだった。…これは決して盗み聞きなんかではなく、店がこぢんまりとしているから自然と耳に入ってくるだけなので勘違いしないでもらいたい。

ナマエと呼ばれていた彼女はニコニコと笑っている顔をよく見る。店長にもオレにも愛想よく挨拶をしてくれるいい人だ。少し幼さが残るような顔に見えるが店長からお前より年上だと言われたときは驚いた。店長が知っていたことにも驚いた。なんで店長知ってるんスか?と訊いたがそこは教えてくれないらしく、さあ?と惚けられてしまった記憶がある。それと、たまにどこかの地域のお土産を店長だったり店員のオレにもプレゼントしてくれるから仕事で出張することが多いんだと思う。

カイトと呼ばれていた彼はナマエさんのような愛想はない。それでもオレ達にぺこりと頭を下げて挨拶をしてくれるのでこの人もいい人なんだろう。愛想がないと言っても笑っている姿は見たことがある。ナマエさんと話しているときの彼は笑っている顔より呆れた顔のほうが多いような気もするが。ちなみに店長曰く、カイトさんもナマエさんと同じ年齢だとか。…うん、だからなんで店長が知ってるの。教えてくれないって知ってるから訊かないけど。あと『え、見えない。』と思ったが声には出さなかったのでセーフだ。


「カイトのそれ美味しそう!」
「……まずは自分の食え」
「一口だけ!カイトにも私のあげるから!」


最初の挨拶同様、この会話もよく耳にする。以前カイトさんが「毎回毎回お前は」と軽く説教じみたことを言っていたからあれがナマエさんの普通なんだろう。その話をナマエさんは全然聞いてる様子じゃなかったが。そしてなんだかんだ言っていつもカイトさんが折れて一口あげているのだから『見た目とは違ってとことん甘い人なんだなあ』とまた新たにカイトさんの内面を知った気がした。

店に変なクレームを付けるような人達じゃないしむしろ関係ないオレにまでお土産くれるめっちゃいい人達だし、そんな人達のことについて云々言うのは店員としてどうかと思うかもしれないが、それでも一つ言わせてもらいたいことがある。

彼等のあのナチュラルにイチャついてるのはなんなんだマジで!!

彼女がいないオレへの当てか!?いや、絶対ありえないってわかってるけど!わかってるけど!!一口頂戴の流れからあーんと開けられた口に料理を運ぶ姿とか、ナマエさんがデザート頼んでケーキのクリームが口元とかに付いてるときとか指でとって舐めたりする姿とか、ほんともう意味わかんない。リア充爆発しろよって思うオレ悪くない。あれか、遠距離か何かか知らないが離れてる分反動が大きいとかそんな感じですか!そうか!爆発しろ!!

そこまで考えて、店長から声が掛かる。やばいこの人読心術でもできんのかな。それでオレに落ち着けって静止の声を掛けたのかな。


「お前すげえ怖い顔してんぞ」
「やだな、仕事中だから大丈夫ッスよ。ほらスマイルスマイル〜」
「……まあ、いいか。ああそうだ、良い事教えてやるよ」
「へ?なんスか?」
「あいつら付き合ってないんだぜ」

店員Aの苦悩
外見的な判断はどうも当てにならないらしい。とりあえずリア充じゃなくても爆発しろ。

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